女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年2月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

冷え症 - 連載第10回 -

西洋医学の病名に冷え症は存在しない
  西洋医学には、冷え症という正式な病名(診断名)はありません。医学辞典には「体の特定の部位のみが特に冷たく感じ、耐えがたい場合をいう」と説明されています。
  原因としては「自律神経(意志とは無関係に体の機能を調節する神経)の失調による循環障害の結果、冷たく感じる。更年期障害の婦人によく見られる症状であるが、自律神経調節異常や心身症(心理的な原因で現れる病的な症状)でも起こる」と述べられています。
  漢方では、冷え症を非常に重要視します。冷え症はさまざまな症状を伴いますが、それら随伴症状を重視していることも漢方の特徴です。
  冷え症は、気(一種の人体エネルギー)の失調によってもたらされると考えます。これは、現代医学の見方である「自律神経の失調」に相当します。
  気の失調に伴って血(けつ・血液)の失調、つまり血液循環の障害が起こります。特に抹消の血管の循環不全が起こりやすく、そのため、手先、足先、鼻先、耳たぶなどが非常に冷たく感じます。
  気血が失調すると水(すい・水分)も失調し、冷え症を悪化させたり随伴症状を引き起こしたりします。
  医学辞典にあるように、更年期障害の人が冷え症になりやすいのは、ホルモンのバランスが崩れることによって自律神経が失調するからです。一方で、冷えはホルモンのバランスを崩し、結果的に更年期障害をさらに悪化させます。
 また、甲状腺(首ののど仏の下の皮下にある、甲状腺ホルモンを作る臓器)の機能低下や膠原病(全身の組織に炎症などを起こす病気の総称)、血管の閉塞にかかわる病気の人も、それらの病気に伴って冷え症になります。
  それらの病気以外にも、冷たい食べ物を多食する食生活や、冷凍室などでの勤務、冷房に当たりすぎる生活も冷え症を引き起こす原因になります。根底で体質も影響していますし、冷え症の原因は多彩です。
  冷え症を感じる部位は、下半身や手足の末端が多く、ほかに背中、おなか、首、肩などで、全身のこともあります。それら冷えを感じる部位に頭痛、肩こり、腰痛、ひざ痛などの痛みが生じることもあります。
  随伴症状には、血液の流れの異常によって起こる症状が多く見られます。一般に冷え症の人は血圧が低く、貧血ぎみです。女性は、血液循環の不調和によって、生理(月経)の異常も冷え症とともに起こることがよくあります。
  また、水の不調和(水滞、水毒)によって、足のむくみ、頻尿、膀胱炎、めまいなどが起こることもあります。

虚証に圧倒的に多く見られる
  漢方では、個人の持つ症候群(証)に応じて処方をします。がっしりとした体形の実証と弱々しい体つきの虚証に分けると、冷え症が圧倒的に多いのは虚証ですが、実証の人にも見られます。
  赤ら顔で、お血(けつ)が強いのは実証の典型です。お血とは、血液が滞っている状態をいいます。
  典型的な実証の人の冷え症に最もよく用いる薬が桃核承気湯(とうかくじょうきとう)で、お血の代表的な薬です。赤ら顔でがっちりしていて、体力があり、便秘がちで、顔ののぼせや肩こりを感じ、へその周りを押すと痛みを感じるところ(圧痛点、お血点)があります。また、不眠・不安など精神神経症状を伴う場合に適用になります。
  実証の人でも、実証と虚証の中間の中間証寄りの人の場合は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を用います。下半身に冷えがあり、へその周りに圧痛点もありますが、顔はさほど赤くなくて、便秘もそれほどひどくない場合に適用になります。
  一方、虚証の人は顔色が青白く、胃腸の働きも弱くて下痢をしやすい傾向があります。みずおちに動悸があり、「胃内停水」といって胃のあたりでポチャポチャと音がします。
  虚証に用いる代表的な漢方薬が当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。ふだんから体が冷え、特に腰から下、足の冷えが強い場合に用います。随伴症状として、おなかにガスがたまりやすく、おなかが痛むこともあります。夏も靴下をはくと楽というような、通年冷えに悩まされるタイプの人に効果を現します。
  当帰四逆加呉茱萸生姜湯の次に、虚証によく用いられるのが、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。適用は顔色が特に青白く、貧血ぎみである場合です。へその左右に圧痛点があり、みずおちのあたりでポチャポチャと音がし、肩こりや生理の異常がある人に適します。
  このほか、虚証の場合、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)は極端に腰が冷える場合に用います。呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、胃腸が弱く、頭痛、頭重を伴う場合に用います。真武湯(しんぶとう)は新陳代謝が低下し、顔色が悪く、めまいがする場合に用います。
  また、中間証には加味逍遥散(かみしょうようさん)を用います。背中が寒くなったり暑くなったりして、みずおちに動悸を感じ、イライラ、憂うつなどの精神不安もある場合に用います。

長年の冷え症が1ヵ月半で大改善
  最後に、冷え症に漢方薬がよく効いたケースを紹介しましょう。
  患者さんは当時40歳の女性で、長年冷えを感じていました。それが出産して1ヵ月後から、骨盤のあたり、太ももやおしりなどの下半身に冷えを強く感じるようになってきました。
  カイロなどを使って外から温めても、まったく効果がなかったといいます。随伴症状として腰痛も出てきて、2003年の夏に診察に見えました。
  少し太っていて、下肢や手足の先が非常に冷えるといいます。みずおちに不快感があり、食欲もあまりなく、精神的なイライラも少しありました。
  虚証の冷え症と診断し、当帰四逆加呉茱萸生姜湯苓姜朮甘湯を処方しました。すると1ヵ月で体が温かくなり、顔に汗が出るようになりました。
  そして、その半月後には、冷えはほとんど感じなくなったのです。食欲も出て、精神的にも落ち着き、腰痛も改善しました。
  証に合った漢方薬を用いると、劇的に冷え症が改善するという好例です。




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