女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年3月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


尿の悩み - 連載第11回 -

膀胱の異常以外にストレスも関与
  尿の悩みには、頻尿、尿失禁のほかに排尿痛、残尿感、尿の濁り、血尿などがあります。こうした悩みを「尿路の不定愁訴」と総称することもあります。
  代表的な尿の悩みが、頻尿です。排尿の回数には個人差がありますが、健康な人の場合、日中で4〜6回です。就寝中に尿意を催すことはありません。
  頻尿の原因には、次の5つが挙げられます。
1.膀胱にたまった尿が少量でも、神経が過敏に反応するため
  膀胱に一定量(およそ200〜250ml)の尿がたまると、膀胱の壁にある神経が感知し、尿意が起こります。
  ところが、膀胱炎になると、神経が過敏になります。そのため、少量の尿でも、尿意が起こるのです。
  また、冬場には、膀胱が寒冷刺激を受けて、頻尿になることもあります。
2.膀胱の容積が小さくなっているため
 膀胱の内部にポリープができたり、子宮筋腫(子宮にできるはれ物)や妊娠のために膀胱が圧迫されたりすると、膀胱の容積が小さくなります。こうして尿をためる容量がヘリ、排尿の回数がふえます。
3.尿の量が異常にふえたため
  糖尿病や尿崩症(脳内で尿の出を調整するホルモンの分泌が不足したため、多量の尿を排泄する病気)などが原因で、尿の量が異常にふえると、頻尿になります。
4.膀胱の神経がおかしくなったため
  直腸がんの手術後などには、膀胱の神経に狂いが生じやすくなり、尿意を頻繁に催します。
5.ストレスの問題で、ついトイレに行きたくなるため
  1〜4の原因に当てはまらないときは、心因性の頻尿が疑われます。この場合、昼間は1時間に2〜3回もトイレに行くのですが、夜寝ると、頻尿が治まってしまいます。

男性よりも女性は尿失禁になりやすい
  頻尿と並んで尿失禁も、多くの人が抱える尿の悩みでしょう。
  尿の通り道である尿道の周囲には、尿道括約筋という筋肉が取り巻いています。尿道括約筋が収縮することで、尿の出は止まります。
  加齢などで、尿道括約筋が衰えると、尿の出を止められなくなり、尿失禁になります。
  また、太りすぎの人は、腹圧(おなかの内部の圧力)が高い傾向にあります。膀胱に圧力が強くかかりやすく、尿が漏れてしまいがちです。これを「腹圧性尿失禁」と呼びます。特に女性は男性よりも解剖学的に尿道が短いため、膀胱が圧迫されると尿が出やすいといえます。
  それから、尿意を催してトイレに行くまでの間に、尿を漏らすことがあります。膀胱炎が原因で、「切迫性尿失禁」といいます。
  ほかに、脊髄(背骨の中を走る中枢神経)の障害によって起こる「反射性尿失禁」もあります。
  漢方では、実証、虚証、中間証などの証(体質や体調)を診断し、証に合わせて漢方薬を投与します。
  実証の人は、がっしりとした体格をしています。そして、胃腸が丈夫で、便秘しがちです。
  一方、虚証の人は見た目が弱々しく、胃腸も弱くて、冷え性です。そのうえ、へその下に力がなく、下腹部を押すとフニャフニャしていることがよくあります。これを「臍下不仁」(せいかふじん)といいます。
  先に、寒冷刺激が頻尿を招くと述べました。ですから冷え症の傾向がある虚証のほうが実証よりも頻尿の悩みは多いと考えられます。
  尿の悩みに使う代表的な漢方薬が八味丸(はちみがん)猪苓湯 (ちょれいとう)です。
  八味丸は虚証に用いる漢方薬で、夜間頻尿、下半身の冷え、臍下不仁が見られた場合に処方します。
  虚証の頻尿に使う漢方薬は数多くあり、八味丸のほかに、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)六味丸(ろくみがん)苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)猪苓湯合四物湯 (ちょれいとうごうしもつとう)が挙げられます。1回の尿量が少なく、むくみがある場合には牛車腎気丸、少しのぼせ傾向があり、下半身の脱力感伴う場合に六味丸、下半身の冷えが顕著のときは苓姜朮甘湯、貧血ぎみで肌がカサカサしている場合には猪苓湯合四物湯が適用です。
  実証より弱く、虚証より強い中間証の頻尿に使う漢方薬が猪苓湯です。血尿が出て、1回の尿量が少なく、汗をあまりかかない人に、猪苓湯は適しています。
  同じく中間証の頻尿に使う漢方薬に、五淋散(ごりんさん)五苓散(ごれいさん)があります。五淋散は、高齢の女性の頻尿によく効きます。また、よくのどが渇き、汗かきで、下半身にむくみがある場合には五苓散を用います。五苓散は全身の水分代謝(利用と排せつ)を調整する漢方薬です。尿の出が少ない場合には用いません。

頻尿が治ると同時に尿失禁も改善
  ここで、49歳の女性の例を紹介しましょう。3週間前ぐらいから、下腹部のイライラ感があり、しだいに頻尿になってきました。1日の排尿回数が日中は10回、夜間も2回ぐらいになったのです。若いときから冷え症で、ほかに、手・ひじの関節痛もありました。月経はやや不順でしたが、閉経は迎えていませんでした。身長は161cm、体重58kg、最大血圧が122mmHgで、最小血圧が68mmHgと正常でした。しかし、舌には白苔が中等度あり、下腹部はフニャフニャで典型的な臍下不仁を認めました(白苔は舌のコケが白い状態)。さらに、不眠も訴えていました。
  この女性はやや太っていましたが中間証から虚証傾向と判断し、猪苓湯を朝夕、牛車腎気丸を昼、酸棗仁湯(さんそうにんとう)を夜寝る前に飲むように処方しました。その結果、1ヵ月で頻尿はすっかり治りました。ただ、排尿時の不快感がわずかにあり、みずおちが少し張るようだと言います。
  そこで、猪苓湯六君子湯(りっくんしとう)酸棗仁湯を服用させたところ、1ヵ月後にはこれらの症状がことごとく消失したので薬を中止しました。
  尿の悩みの場合、これまでの治療経験から、漢方薬の服用で頻尿が改善すると、尿失禁も同時に治ってしまうといえます。
  尿の悩みは高齢の女性に圧倒的に多いのですが、30〜40代でもひそかに悩んでいる場合もあります。冬場は下半身を冷やさないように注意し、漢方薬も試してみるといいでしょう。

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