女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年5月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

粘血便 - 連載第13回 -

原因不明の難病にすぐれた効果を発揮
  ドロッとした粘液と血液が混じっている便を、粘血便といいます。
  粘血便が出る主な病気には、(1)日本住血吸虫症、(2)細菌性赤痢・アメーバ赤痢、(3)潰瘍性大腸炎、(4)大腸ガンの4つが挙げられます。
  これらのうち、日本住血吸虫症は、日本住血吸虫の感染で引き起こされる病気で、現在の日本ではほとんど発生していません。細菌性赤痢・アメーバ赤痢も感染症の病気で、治療薬が進んでいるので、たいてい1〜2週間で治ります。大腸ガンの場合は、粘液よりも血液が多く便に混じります。素人判断で痔と間違えないようにしなければなりません。
  粘血便が現れる病気の中で、最も多いのが潰瘍性大腸炎です。日本人に急増している大腸炎の難病で、患者数は年間7〜8万人に上るといわれています。大腸の粘膜に傷がついて、びらん(ただれ)や、潰瘍ができ、粘血便が出ます。炎症は、粘膜の広範囲に渡って起こります。
  潰瘍性大腸炎の原因は、まだよくわかっていません。血液の成分である白血球の中の顆粒球がふえたために、活性酸素(攻撃性のある酸素)が大量に発生し、それが大腸の粘膜にびらん・潰瘍を作るとも考えられています。
  潰瘍性大腸炎になると、粘血便の下痢が繰り返し起こり、便通の回数がふえ、1日に5〜6回から、ひどい場合は20回にも及ぶことがあります。排便のときにおなかが痛み、発熱します。そのため、体力が低下し、食欲も減退します。一時的に緩解(症状が治まった状態)しても、再発をを繰り返すのが特徴の一つです。
  治療は、現代医学では抗炎症剤やステロイド剤などを使いますが、粘血便が多量で再発を繰り返す重症の場合は、手術で大腸を全部摘出することもあります。
  近年は血液中の顆粒球を除去する治療も行われていますが、なかなか完治できません。だからこそ潰瘍性大腸炎は難病なのですが、こうした病気に漢方薬がすぐれた効果を発揮します。
  2000年前に中国で編集された『傷寒論』という漢方の古典があります。この本に「膿血便」に用いる処方として桃花湯(とうかとう)が紹介されています。膿血便は、ほぼ粘血便と同じだと考えられます。桃花湯には、赤石脂粳米乾姜の3つの生薬が配合されています。
  同時代の漢方書である『金匱要略』には、膿血便に用いる漢方薬として黄土湯(おうどとう)も紹介されています。これには黄土のほか、阿膠附子甘草白朮地黄などの生薬が配合されています。
  私は、桃花湯に、黄土湯に配合されている生薬の大半を加え、煎じて飲む方法を考案しました。この処方・桃黄湯(とうおうとう)を潰瘍性大腸炎に試したところ、高い改善効果が得られました。
  桃黄湯
は、飲み方も工夫しました。一般に漢方薬は毎食前に飲みます。しかし、桃黄湯は朝起きたときと就寝前の2回服用してもらいました。
  1日のうちで粘血便が出やすい時間帯が朝食の前後であるため、夜間就寝中にびらん・潰瘍ができ、病状が進んでいると考えられます。そこで、病状の悪化を防ぐために就寝前に、粘血便を防ぐために朝起きたときに、それぞれ桃黄湯を飲んでもらったのです。
  桃花湯黄土湯に配合している赤石脂黄土などの鉱物質には、珪酸アルミニウムや酸化カルシウムなどが含まれています。こうした鉱物質の成分が、活性酸素の発生や作用を防ぐと考えられます。
桃黄湯のほかにも、止血・収斂作用(腸の粘膜を保護する作用)がある大桃花湯(だいとうかとう)や、下痢を止める作用のすぐれた啓脾湯(けいひとう)胃風湯(いふうとう)柴苓湯(さいれいとう)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)を、潰瘍性大腸炎に用います。漢方薬を組み合わせて使ったり、西洋薬と併用したりすることもできます。
  ここで紹介した漢方薬の半分が煎じ薬で、健康保険は適用されません。健康保険が適用されるエキス剤があるのは、啓脾湯柴苓湯柴胡桂枝湯です。

西洋薬との併用や薬からの離脱も可能
  私はこれまで桃黄湯を処方して、約150例の潰瘍性大腸炎を治療してきました。効果の早いケースでは1〜2週間で粘血便が止まり、60〜70%の人が4〜8週間で粘血便が解消します。半年で排便の回数も1日2〜3回にへってきて、日常生活にほとんど支障がなくなります。その後は、整腸、体質改善の漢方薬に切り替えます。
  潰瘍性大腸炎の治療例を紹介しましょう。患者さんは現在42歳の女性で、ある病院で潰瘍性大腸炎と診断され、抗炎症剤やステロイド剤を服用していました。
  一進一退の状態が続いた後、急激に悪化し、1日に8回も粘血便が出ると訴えて、1年半前に受診してきました。初診時には抗炎症剤のサラゾピリンのみ服用していました。
  直腸型といって、肛門に近い直腸に潰瘍が集中するタイプです。血液中のヘモグロビンが8.8g/dl以下(女性の標準値は11.3〜15.2g/dl)で、貧血もかなりひどいようでした。
  そこで、桃黄湯を朝と夜寝る前の2回、そして啓脾湯を朝と夕方の2回、それぞれ服用し、抗炎症剤はしばらく続けてもらうことにしました。
  すると、1ヵ月で粘血便の回数が1日3〜4回にへってきて、2ヵ月後には粘血便が出るのは朝だけになりました。3ヵ月後にはほとんど粘血便は出なくなり、普通の便が出るようになって、回数も1日1回になったのです。
  ヘモグロビンの数値も回復してきて、5ヵ月後には標準範囲の14.4g/dlになりました。そこでこの時期には、抗炎症剤を飲まなくても済むようになりました。
  初診から半年後には、桃黄湯をやめ、啓脾湯をときどき飲むだけになりました。そして、1年4ヵ月後には、治療とみなし、啓脾湯もやめてもらいました。現在に至るまで、再発の兆しもなく良好な状態が続いています。
  このように、潰瘍性大腸炎に桃黄湯はすぐれた効果を発揮しますが、止血した後は長く飲み続けないほうがよいでしょう。
  体質改善よりも症状抑制を重視した漢方薬は、基本的に症状が止まれば服用も中止します。その後は、体質を変えていくように心がけていくのです。
  潰瘍性大腸炎の患者さんには、お血(血液の流れが滞った状態)と冷え性が多く見られます。それから、舌の苔が荒れて、地図のようにところどころはげてくることがよく見られます。これは、気虚(気力の衰え)と血虚(血液の欠乏)があることの表れです。また、ストレスがかかると、必ずといっていいほど症状が悪化します。
  ですから、潰瘍性大腸炎の予防・改善には冷え対策を行って、血行をよくし、休養をじゅぶん取るように心がけてください。




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