女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年6月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

自律神経失調症 - 連載第14回 -

気血水のバランスが崩れている
  いつも体がだるい、頭が痛む、眠れない、めまいがするといった症状に悩まされているのに、病院で検査をしても悪いところはない。このようなとき、自律神経失調症と診断されることがよくあります。
  最近はこの自律神経失調症や神経症、神経衰弱、ヒステリーなどを包括して、「身体表現性障害」という名前に統一されたのですが、一般には、まだなじみがありません。
  これらの病気に最も関係が深い自律神経について、説明しておきます。
  私たちの体は、神経でコントロールされています。神経を大きく分けると、中枢神経と抹消神経があります。中枢神経は脳と脊髄で、体の司令塔に当たります。
  そして、全身にくまなく張り巡らされている末梢神経は、内臓や筋肉などに中枢神経からの情報を与えたり、逆に、情報を受け取って中枢神経に送ったりしています。
  抹消神経の大半を占めているのが、自律神経です。
  自律神経は、相反する働きを持つ交感神経と福交感神経から成り立っています。体の機能のほとんどは、この2つの神経のバランスで調節されています。
  血圧や体温、消化吸収、老廃物の排せつなどは、私たちの思い通りにはなりません。これは、自律神経が意思とは無関係に働いているからです。
  自律神経のバランスが崩れると、さまざまな症状が現れます。主な症状として、慢性的な疲労感、頭痛、めまい、不眠、手の震え、手足の冷え、発汗の異常、動悸、息切れ、胸の痛み、食欲不振、胃部の膨満感、便秘、下痢などが挙げられます。こうした不快な自覚症状が、自律神経失調症なのです。
  例えば、動悸がひどいために病院で検査を受けても、心臓にはまったく問題がありません。また、動悸のほかに不眠や手足の冷えなどにも悩まされています。このように、いくつかの症状が重なって現れるのも自律神経失調症の特徴です。
  自律神経失調症の原因として、気候、風土などの環境ストレスや、性格、年齢などの内的ストレスがあると考えられています。要するに、原因をはっきりと特定できないということです。
  そのため、西洋医学では個々の症状を抑えるために、精神安定剤や睡眠導入剤などを数種類併用します。こうした薬がたくさん処方されることも、決して珍しくありません。
  一方、漢方では症状だけでなく、症状を訴えているその人全体を見ます。ですから、さまざまな症状が現れ、原因がはっきりしていない自律神経失調症に対し、証(自覚症状と他覚症状、体力、体質による漢方的な総合診断)に基づいて治療を行います。
  自律神経失調症は、気(生命エネルギー)・血(けつ・血液、栄養)・水(すい・水分、体液)のバランスが崩れた状態で、証によって、現れる症状が違います。
  体力のない虚証の場合、気の変化が強く現れます。不安感を抱く、ささいなことが気になる、イライラする、憂うつになるなど、精神面に関する症状が多く見られます。
  一方、体力のある実証の人では、便秘・のぼせ・めまい・肩こり・動悸がするなどがよく現れます。
  自律神経失調症の治療は、じっくり取り組む必要があります。一般には3ヵ月から半年ぐらい、漢方薬による治療を続けると効果が現れてきます。症状が取れても服用を急にやめるのではなく、徐々に量をへらしていくことが大事です。

西洋薬との併用や薬の減量も可能
  虚証に用いる代表的な漢方薬が桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)です。みずおちに動悸があり、ささいなことが気になってイライラし、喉がつかえる感じがして、のぼせが多少ある場合に用います。ほかに補中益気湯(ほちゅうえっきとう)柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)、また神経疲労が強い場合は甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を使います。
  体力が虚証と実証の中間にある中間証には、加味逍遥散(かみしょうようさん)を処方します。手足が冷える・顔がのぼせる、気分が沈む、ささいなことが気になるなどの症状のほか、更年期障害や月経不順にも適用です。また、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)香蘇散(こうそさん)もあります。
  実証に用いる代表的な漢方薬が、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)です。便秘で口の中が苦く、みずおちがつかえているように感じて、動悸がし、多少イライラする場合に用います。便秘がひどい場合には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を、のぼせ・めまいを強く訴える場合には女神散(にょしんさん)が適しています。
  また、冷え症を伴っているときは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を併用します。
  自律神経失調症を訴えて受診した53歳の主婦の場合、漢方薬による6ヵ月の治療で、症状がほとんど治りました。
  今から1年ほど前、胃が痛むため、胃カメラで検査をしたものの、異状はなかったといいます。胃痛のほかに、強い不安感に襲われ、動悸があり、気が沈んで、異常な発汗やめまいがあったそうです。検査を受けた病院で自律神経失調症と診断され、胃薬と精神安定剤を処方されました。
  自律神経失調症になったきっかけは、病気の母親の看護でした。身長165cmに対し53kgだった体重は、5kgへって48kgになりました。
  不安感は強かったのですが、精神安定剤を飲みたくなかったようです。こうして私のもとに訪れたときには、みずおちに動悸があり、へその周囲を押すと痛みを訴えました。これはお血(血液の流れが滞った状態)を示しています。
  この女性をやや虚証であると診断し、桂枝加竜骨牡蠣湯加味帰脾湯(かみきひとう)を処方しました。前述したように、桂枝加竜骨牡蠣湯は、虚証の自律神経失調症に用いる代表的な漢方薬です。また、加味帰脾湯には、精神不安や不眠を解消する効果があります。
  この2つの漢方薬の効果は、徐々に現れてきました。半年後の現在、多少の不安感はありますが、胃痛や動悸などの症状はほぼ消えました。このまま服用を続ければ、さらに改善していくと思います。
  今回紹介した女性は、精神安定剤や睡眠導入剤を使っていませんでした。しかし、自律神経失調症の患者は、たいてい、こうした西洋薬を大量に飲んでいます。漢方薬は西洋薬と併用できるうえ、西洋薬の量をへらしていく効果もあります。
  最後に、自律神経失調症を薬だけで治そうとするのは難しいでしょう。日常生活でストレスをためないようにして、スポーツや趣味などの生きがいを持ってください。



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