女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


顔のむくみ - 連載第15回 -

むくみの背後に大きな病気も潜む
  人間の体液は、細胞内にある細胞内液と、その周囲の細胞外液から構成されています。そして、細胞外液には、血管内を流れる血管内液と組織間液があり、これらが細胞周囲を満たしています。組織間液は、栄養や老廃物などを運搬し、細胞内外の環境を保つのに必要です。
  組織間液が増加した状態が、むくみ(浮腫)です。
  一口にむくみといっても、顔から手足まで全身に同時に起こるタイプと、足だけや目の周囲だけに起こる局所性のタイプがあります。
  今回は、顔に顕著に現れやすい全身性のむくみについて解説しましょう。
  全身性のむくみの原因として、(1)心臓の機能低下、(2)腎臓の機能低下、(3)肝臓の機能低下、(4)内分泌性の問題、(5)栄養障害などが挙げられます。
  それぞれの特徴は、次のとおりです。
  (1)心臓の機能低下
  尿にたんぱくが出て、主に下半身がむくみます。
  (2)腎臓の機能低下
  尿にたんぱくが出て、顔がむくみます。急性腎炎は、まぶたがむくむのが特徴です。時間がたつとむくみが取れてくるので、放置しがちですが、頻繁にまぶたがむくむときには検査を受けてください。
  顔をはじめ全身的にむくみが長く続く場合、ネフローゼ症候群(腎臓の糸球体の病変で、血液中のたんぱくが尿中に多量に排出される症状)の疑いがあります。
  (3)肝臓の機能低下
  おなかから太ももがむくみます。
  (4)内分泌性の問題
  月経前や更年期には、女性ホルモンの影響でむくみやすくなります。
  (5)栄養障害
  大手術の後など、血液中のたんぱくが減少して起こります。
  このように、さまざまな臓器の異常で体がむくむので、むくみが気になる場合は、検査を受けてください。
  しかし、内臓には異常がなく原因はわからないのにむくむことが、女性にはよくあります。
  西洋医学では、原因不明のむくみは軽視されがちですが、漢方では水(水分、体液)の巡りが悪い水滞、水腫として重く考えます。そして、水の流れの改善を図る利水剤に分類されている漢方薬を用いますが、同時に気血水のバランスを保つ生薬も含まれているものです。
  水については前述しましたが、気は生命エネルギー、血は、血液や栄養を指し、それぞれの巡りを改善するものを気剤・血剤と呼びます。
  代表的な利水剤が五苓散(ごれいさん) です。 五苓散は、沢寫(たくしゃ)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)、 桂枝(けいし)の5つの生薬が配合され、体力の弱い虚証と体力がある実証のどちらの人にも使えます。五苓散小柴胡湯(しょうさいことう)を合わせた柴苓湯(さいれいとう)も、利水剤です。
  また、月経前や思春期、更年期のむくみには、お血(血液の流れが滞った状態)を解消する駆お血剤を、利水剤と併用します。顔にむくみがあり、排尿困難やめまい、のぼせなどを伴っている女性には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を使います。一方、貧血の場合は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が適しています。
  高齢者で、はっきりとした原因がない慢性のむくみには、八味丸(はちみがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)など、気剤の桂枝、血剤の地黄(じおう)、利水剤の茯苓などの生薬を配合した漢方薬を用います。これらはやや虚証向きです。
  このほか、急性腎炎で血尿が見られる場合、猪苓湯 (ちょれいとう)を用います。
  顔のむくみは、虚証で手足に冷えがある女性によく見られます。ですから、ふだんから体を冷やさないように注意し、手足をもむなどして血流をよくすることが大事です。さらに、栄養のバランスが取れた食事を心がけ、塩辛い物や甘い物を食べ過ぎないようにしましょう。

むくみが取れれば服用をやめてよい
  ここで、47歳の女性の例を紹介しましょう。
  この女性が45歳のころにも、たまに顔がむくむことはありました。ただ当時は、時間がたてば自然に治っていました。
  それが、46歳になってから、尿の出が悪くなり、顔がひどくむくむようになってきました。手やすねも、多少むくんでいました。
  そのうち、尿がなんとなく出にくくなり、回数が1日3回にへりました。手足が冷え、頭痛やめまいも起こるようになりました。
  検査をしたところ、尿にたんぱくは出ていません。血液検査の結果では、中等度の貧血です。
  心臓や腎臓などに特に悪いところはないため、全身の疲労と冷え、貧血による顔のむくみと診断をしました。
  この女性はやや月経不順だったので、更年期に起こるホルモン分泌の変化も、むくみに影響していると考えられました。
  そこで、五苓散を飲んでもらうことにしました。また、みずおちのつかえと吐き気を訴えていましたので、茯苓飲(ぶくりょういん)も併用しました。
  すると2〜3週間で、顔のむくみがすっかり取れたのです。頭痛も消え、尿量も元どおりになっています。
  むくみが取れてしまえば、漢方薬を飲むのはやめてかまいません。

コラム
女性の体質に漢方はぴったり
女性に多くみられるむくみや冷え症などは、西洋医学ではとらえようのない症状です。なぜなら、病気の原因を突き詰めることを重視して発展してきた医学だからです。
  一方、漢方では患者の全身を統合的のとらえ、症状に対処するという方法で発達してきました。ですから、西洋医学で治療が難しいといわれている症状にも、非常によく効きます。
  一般に、慢性的な症状を抱えている女性は多いものです。その理由の一つは、女性がホルモンの影響を強く受けていることです。
  女性ホルモンの働きや分泌状態で、女性の体はコントロールされています。女性ホルモンの分泌が乱れると、女性の体はバランスを崩し、不快な症状が引き起こされます。
  漢方で用いる生薬には、女性ホルモンに作用して、働きや分泌状態を調整するものが数多くあります。
  女性は更年期や月経前などに女性ホルモンの分泌が大きく変化しますが、漢方と上手につきあって、うまく乗り切るように心がけてください。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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