女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


足のむくみ - 連載第16回 -

水太りを解消する防已黄耆湯
  夕方になると足がむくんで太くなる女性は、多く見られます。
  朝夕で1.4kg以上の体重差が現れるほどむくみがひどく、内科で検査を受けても異常が見られなければ、西洋医学では特発性浮腫と診断します。むくみは全身に現れますが、特に足首の周囲が顕著です。
  特発性浮腫は、一般的には治療の対象になりません。塩分を控えて、規則正しい生活を送るように指導し、経過を見ることが多いようです。
  一方、漢方ではむくみに対して積極的な治療を行います。むくみを、気(生命エネルギー)・血(血液や栄養)・水(水分や体液)のバランスが崩れ、水毒(水滞)が現れている症状ととらえるからです。
  川の流れでいえば、水毒は水のよどみです。よどみにはみるみるゴミがたまり、やがては川の流れを妨げてしまいます。水毒も同様に、体にとって悪い兆候です。たかがむくみと安易に扱われてしまいがちですが、長く続くときには注意してください。
  漢方は、証に基づいて治療を行います。証とは、自覚症状と他覚症状、体力、体質による漢方的な総合診断です。体力が充実している状態を実証、体力が弱っている状態を虚証と考えます。
  足のむくみに最もよく用いる漢方薬が、五苓散(ごれいさん) です。五苓散は、先月、顔のむくみを解消する漢方薬として紹介しています。実証・虚証の両方に使われます。
  それから、足のむくみにはひざの痛みを伴うことがよくあります。
  やや虚証で、ぽっちゃりと太り、体が重くて運動が苦手な、いわゆる水太りの人には、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)を使います。ひざの痛みが強い場合は、防已黄耆湯麻黄という生薬を加えます。
  同じ足のむくみとひざの痛みを訴えていても、おなかがパンと張り出した肥満で、便秘しやすく、赤ら顔の人には、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)が適しています。
  ここで、防已黄耆湯でむくみを改善した例を紹介しましょう。
  やや水太りした37歳の女性で、身長が154cmに対し、体重は53.5kgでした。両方のひざに水がたまっていて、ひざから下がむくみ、足首も少し腫れていました。梅雨や季節の変わり目には、ひざの調子が悪化するとのことでした。
  排尿の回数が多く、日中は15回、夜間も3回ありました。舌を見ると、縁がデコボコしていました。これは、水毒の重要な症状の一つです。
  非常に汗かきで、皮膚がカサカサしており、夢をよく見るということから、虚証と診断しました。
  さらに、右手の親指の表裏に、たくさんのイボができていました。
  そこで、水の巡りをよくする漢方薬の防已黄耆湯にハトムギを加えて処方しました。ハトムギは昔からイボ取りの効果が認められており、水の巡りをよくする利水作用もあります。
  漢方薬を飲み始めると、2ヵ月で足のむくみとひざの痛みが取れてきて、3ヵ月でひざの痛みはほとんど起こらなくなりました。
  しかしその後、漢方薬の服用を怠ったために、初診から1年半後に再び足がむくみ始めて、右足のひざが腫れて痛むようになりました。
  そこで、防已黄耆湯五苓散を服用してもらったところ、少しずつひざの腫れと痛みが取れてきて、むくみも軽くなっていきました。ちなみに、イボについては、初診から8ヵ月後にすっかり消えています。
  最初に診察してから症状が落ち着くまで2年くらいかかりましたが、今では足がむくまなくなっています。

適度な量と温度の水分を取る
  足がむくみやすい人は、水毒を取り除く薬草を、ふだんからお茶にして摂取するといいでしょう。先に述べたハトムギのほかに、身近な薬草として、ドクダミとカワラヨモギが挙げられます。
  ドクダミは、夏場に空き地や道端など至るところに生える、ハート形の葉をして独特のにおいを発する植物です。抜いても抜いても生えてくるしぶとい雑草ですが、乾燥させた花・茎・葉のお茶は、水毒を除くだけでなく穏やかに便通を促す効果もあります。
  カワラヨモギは、川原や海岸の砂地に多く自生する多年草です。夏に地上部を採取して乾燥させたものを、他の薬草と混ぜるなどして、お茶に利用します。利尿のほか、黄疸(肝臓の障害によって皮膚や粘膜が黄色になる症状)の薬とされています。
  3つの薬草のお茶は、薬店や自然食品店などで入手できるでしょう。
  また、むくみやすい人は、水分摂取を控えがちですが、これはよくありません。体の中にじゅうぶんな水分がなければ、きちんと循環しないからです。とはいえ、ガブガブと大量に飲むのは勧められません。のどが渇いているときに、ほどほどに水分を取ってください。
  体の負担にならないのは、体温に近い温度の水分です。ただ、こだわる必要はなく、おいしく飲むことがたいせつです。
  そして、乗り物に長時間乗ったり、立ちっぱなしだったりして、足がむくみやすい状態が続いた日は、夜寝るときに足を高くしてください。足の下にクッションを置き、体を横にしたときに足が心臓よりやや高い位置に来るようにします。
  ところで、前号で詳しく説明したように、肝臓や心臓、腎臓の機能が低下していたり、偏食などで血液中のたんぱくが減少したりしているときにも、体はむくみます。
  突然むくみがひどくなった、あるいは長期間むくみが続くなどの変化に気づいたら、必ず病院で検査を受けてください。
  さらに、日常生活に使用する薬品でむくみが現れることも、かなり多いようです。髪を染める薬剤で手や顔がむくんだり、洗剤で手がむくんだりし、アレルギー性浮腫と呼ばれています。これは足のむくみとはほとんど関係ありませんが、むくみには実にさまざまな原因があることを、知っておいてほしいと思います。




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