女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2005年4月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


ドライマウス - 連載最終回 -

女性の罹患率は男性の17倍
  漢方では、2000年くらい前から、口の中の乾燥を「口渇」「口乾(または口燥)」という2つのとらえ方をして、治療を行ってきました。
  一方、西洋医学で口の乾燥を病気として認めた歴史は浅く、1933年にスウェーデンのシェーグレンという眼科の医師が初めて報告したので、「シェーグレン症候群」と呼ばれています。外分泌の異常で唾液や涙が出にくくなり、口の中や目が乾燥します。そして、高い割合で慢性関節リウマチなどの膠原病(全身の組織に炎症などを起こす病気の総称)を伴うのです。
  正常な状態の舌には、うっすらとした紅色の苔がついていますが、口が乾くドライマウスの場合、舌も乾燥して亀裂が多くなります。さらに、口の中が粘っこくなり、湿らせるために何度も水を口に含みたくなります。唇は乾燥してひび割れてしまい、口臭が現れ、味がわからなくなることもあります。
  同時に、目も乾燥してドライアイになり、ショボショボしたりゴロゴロしたりします。
  さらに、口と目の乾燥が進むに伴い、性器も乾燥してきます。
  2000年の統計によると、日本のシェーグレン症候群の患者数は1万8000人でした。男女比は1対17で、女性に圧倒的に多いのが特徴です。年代別では、最も多いのが40代で、50代、30代と続きます。
  西洋医学では、ドライマウスには口の中に水分を補う薬やステロイド剤を、ドライアイには保湿成分を含む点眼薬を用いますが、いずれも対症療法です。

虚証の人がかかりやすい
  冒頭で述べたように、漢方では口の乾燥を口渇と口乾に分けて考えます。
  口渇は、口の中が乾燥して、大量に水を飲みたがる状態です。それに対して口乾は、口が乾くけれど、少し湿らせる程度でよく、特に水を飲まなくてもよい状態です。
  一般的にドライマウスと呼ばれている症状は、口乾に当たります。
  漢方では、気・血・水の巡りを重視します。気は生命活動を維持する一種の体内エネルギー、血は血液、水は水分を指しています。
  また、気・血・水が充実している状態を実証、不足している状態を虚証といいます。
  口乾は、実証よりも虚証によく起こります。そして、水の巡りの悪い状態(水滞)のときに現れます。ですから、温補滋潤剤、つまり、体を温めて、潤し、保護する漢方薬を使います。
  温補滋潤剤には、人参地黄茯苓麦門冬のいずれかの生薬が配合されています。人参は胃腸の働きを活発にし、地黄は血を補います。茯苓は、水を巡らせて、麦門冬は鎮咳(咳を鎮める)・強壮作用があります。
  口乾にいちばんよく使われているのが、麦門冬湯(ばくもんどうとう)です。その名のとおり、麦門冬が主成分で、ほかに半夏人参が配合されています。のどに違和感があり、タンが詰まって出にくい場合に適しています。麦門冬湯には、気の巡りを整えて、水を潤滑にする作用があります。
  地黄麦門冬人参などが含まれている炙甘草湯(しゃかんぞうとう)は、口が乾いて、手足がほてり、動悸・不整脈があるときに用います。
  血を補う代表的な漢方薬の十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は、地黄人参茯苓が配合されています。気血を補うことで、枯渇している水を潤します。
  八味地黄丸(はちみじおうがん)には、地黄茯苓のほかに、新陳代謝を高める附子も加わり、舌が異常に乾いて、足腰が弱まり、頻尿など尿のトラブルがあり、手足が冷えるときに使います。
  胃腸の弱い人は八味地黄丸が適さないので、桂枝附子を除いた六味丸(ろくみがん)を代わりに使ってください。
  水の巡りをよくする牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、口が乾いて、尿の出が悪い場合に適しています。八味地黄丸牛膝車前子を加え、八味地黄丸の作用を増強させた漢方薬です。
  なお、ドライマウスではなく、水を飲みたがる口渇には、五苓散(ごれいさん)猪苓湯 (ちょれいとう)白虎湯 (びゃっことう)を用います。

慢性の症状に劇的に効くことも
  ドライマウス(口乾)が3ヵ月で治った39歳の女性の例を紹介しましょう。1年くらい前から、口が乾いてネバネバし、目も乾燥してゴロゴロして痛むようになりました。こうした症状がひどくなってきたため、来院しました。
  この女性は、身長が160cmで、体重が50kgです。ドライマウス・ドライアイのほかに、ひざから下のむくみと、花粉症もありました。そして、寝つきが悪く、血圧は少し低めです。関節が腫れたり痛んだりする慢性関節リウマチの症状は、ありませんでした。
  診察すると、脈が弱く、舌がはれぼったくて歯痕(舌の縁にギザギザとできた歯型の跡)が見られ、水滞だとわかりました。また、軽いお血(おけつ・血が滞った状態)がありました。
  この女性には、水を巡らせる麦門冬湯苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を処方しました。すると、不眠が治り、むくみも軽くなったような気がするといいます。
  そして5週間後、苓桂朮甘湯当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に替えました。当帰芍薬散には、お血を取り除く効果があります。こうして麦門冬湯当帰芍薬散の服用を1ヵ月続けたら、口の乾燥はだいぶよくなってきました。
  さらに1ヵ月服用した後には、口の中の乾燥や粘っこさをはじめ、ほとんどの症状がよくなり、最初の診察から約3ヵ月たった時点で治療を修了にしました。
  このように、漢方薬でドライマウスが短期間で改善するケースがあります。
  なお、軽症のうちは、(1)唾液が出るように、よくかんで食べること、(2)冷えと乾燥を防ぐために、手足の指をよくもんで血液を巡らせること、の2つをふだんから心がけて、悪化を防いでください。
  一般に、男性よりも女性に、慢性的な症状を抱えている人が多く見られます。ドライマウスもその一つといえます。慢性的な症状は、西洋医学では治療がなかなか難しいのですが、漢方薬は劇的に効く場合があります。
  症状だけにとらわれず、自分の体力や体質などをよく見極めて、漢方薬と上手につきあっていただきたいと思います。

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