漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

この記事は 「安心」2005年9月号(マキノ出版)に掲載されました

決定的な治療法のない網膜色素変性症の進行を抑え視野や視力の改善を促す漢方薬

眼底の血流が悪いことが多い
  現代医学は飛躍的な進歩を遂げていますが、それでもなお、決定的な治療法のない病気がいくつも存在しています。網膜色素変性症という目の病気も、その一つです。
  これは目の網膜に色素がにじみ出るために、だんだん視野が狭くなっていく病気です。色素が出ず、網膜の血管が細くなるだけの、無色素性の非定型的網膜色素変性症もあります。
  網膜には光や色を感じる細胞があり、物を見るために大切な役割りを果たしています。ところが、網膜に色素がにじみ出てくると、その部分の細胞が変性して明暗などを感じられなくなってしまいます。
  その結果、視野が狭くなってくるのです(視野狭窄)。夜空の星を見たときに、一等星や二等星、人によっては月までもが、見えない、探せないなどから、網膜色素変性症が発見される場合もあります。星によって光の強さや大きさが違うので、どの程度の星が見えるかで、視力や視野の状態を自己判断することができます。
 視野狭窄が時間をかけてゆっくり進む、進行性の病気であることも特徴です。
  発症には、遺伝的な要因が関係しているといわれていますが、その程度は5〜6割です。遺伝的な要因がないのに発症する場合もあり、病気の原因は解明されていません。
  原因が明らかになっていないことから決定的な治療法も確立されていないのですが、患者さんのほとんどは、眼底の血流が悪いことが多いのです。
  そこで、現代西洋医学では、治療に血流改善剤やビタミン剤などを用いています。しかし、現状では、この治療が絶対に効くともいえないのです。
  東洋医学でも、網膜色素変性症を治療するときは、血流の改善に取り組みます。ちなみに、東洋医学では、全身の状態をよくすることによって、個々の病気もよくなっていくと考えています。目の病気も例外ではありません。
  実際に、網膜色素変性症の患者さんを診ると、多くの場合、お血(おけつ)が見られます。お血というのは、東洋医学の用語で、血液の停滞を意味しています。
  つまり、血流が悪いということで、おヘソのまわりに押すと痛い圧痛点があることなどからわかります。
  もう一つ、胸脇苦満という、季肋部(みずおちからわき腹にかけての肋骨の下あたり)の抵抗圧痛感も見られます。
  このような証(東洋医学における診断の目安)を示す人に適している漢方薬は、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などの柴胡剤です。実際、柴胡桂枝湯で網膜色素変性症の進行が抑えられた例もあります。
  ほかに、血流をよくする桂枝茯苓丸(けいしふくりょうがん)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を用いることもあります。また、年配の人で白内障や神経痛、糖尿病を併発しているような場合は、八味地黄丸(はちみじおうがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を用いることもあります。体質や体力、そのときの体の状態などによって、自在に薬の処方を変えられるのは、東洋医学の治療のよいところです。
  では、漢方治療で網膜色素変性症の進行が抑えられている例をご紹介しましょう。

T・Sさん(26歳・男性)
  小学生のときに網膜色素変性症が発見され、20年間治療を続けています。漢方治療を始めたのは13年前で、当初の視野は10度くらい(通常は60〜70度)、視力は両目とも0.1でした。
  お血と胸脇苦満があったので、柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸苓桂朮甘湯を処方。治療を始めると視野の狭窄が止まり、視力はだんだんよくなって、5年後に0.5になりました。
  眼底検査で見ても、血流がよくなり、色素の滲出が止まっていることが確認され、いまに至っています。日常生活に支障はなく、普通の人と同じように仕事をしています。

A・Kさん(27歳・女性)
  18歳のときに網膜色素変性症と診断されました。漢方治療を始めたのは5年前で、視野は12度程度、視力は両目とも0.5でした。
  処方した漢方薬は柴胡桂枝湯が中心です。便秘がひどかったので、桂枝加大黄湯(けいしかだいおうとう)を併用しました。
  彼女の場合は視野が順調に広がって、1年後には20度を超えました。視力も右は変わりませんが、左はよいときには0.7くらい出ています。
  仕事も順調で、平成15年に火星が大接近したときには、職場の友人たちといっしょに見ることができたと喜んでいました。

K・Yさん(44歳・男性)
  5歳ぐらいで発症し、漢方治療を始めたのは8年前。当初の視野は15度で、視力は両目とも0.5でした。
  お血と冷えが強かったので、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)桂枝茯苓丸を加えて処方しました。K・Yさんにはアトピーもあり、その症状が出たときに荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、また、セキのひどいときは苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)を出すなどしましたが、中心となった漢方薬は柴胡剤です。
  すると、徐々に視野が広がってきて、5年後には20度を超えたのです。視力も右が0.7、左が1.0になりました。
  お血も改善されて、全身の状態もよくなっています。
  網膜色素変性症では、視野狭窄がゆっくり進行するため、幼少期に発症しても、気づかないまま成人する人がいます。
  子供のうちに発見できれば、網膜の変性を最小限に抑えることが可能です。10代、20代なら、視野が回復する可能性も十分あります。しかし、30代、40代で大幅に視野が狭まってからでは、回復を望むのは難しくなってきます。
  これはアメリカのデータですが、網膜色素変性症になった人の0.5%程度は失明しています。早期発見・早期治療が望ましい病気なので、家族に網膜色素変性症の人がいたり、暗くなると目が見えにくかったりする子供は、検査を受けておくとよいでしょう。
  目に紫外線が入るのを避けることも、病気の進行を抑えるのに役立ちます。



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