漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

この記事は 「壮快」2006年1月号(マキノ出版)に掲載されました

原因不明の目の難病「網膜色素変性症」の進行を食い止め視力も改善する
   漢方薬
昌平クリニック院長・杏林大学名誉教授  鍋谷 欣市

へその周囲にしこりが感じられる
 いわゆる難病に、漢方が著効を現すことがあります。そんな病気の一つに網膜色素変性症があります。
 カメラでいえばフィルムにあたる目の網膜が冒されて、だんだん視力が低下して、視野が狭くなる病気が、網膜色素変性症です。網膜に色素がにじみ出て変性するタイプと、色素はにじみ出ず(無色素性)に、血管だけが細くなる非定型的網膜色素変性症というタイプがあります。
  原因はまだよくわからず、治療法も確立されていません。この病気の約50%は、遺伝素因が関係しているといわれます。
  昔は失明する病気と考えられていましたが、最近はそれほど失明率は高くないことがわかってきました。進行が緩やかで、日常生活に不自由のない目の働きをずっと維持できている患者さんもたくさんいます。
  網膜色素変性症の患者さんに腹診(腹部を押して行う漢方の診療法)を行うと、特徴的な腹部症状があります。一つはお血(おけつ)の症状です。お血というのは、血液がうっ滞した状態を意味する漢方の用語です。へその周囲や下腹部に、しこりのような抵抗が感じられるのです。
  もう一つは胸脇苦満といわれるもので、みずおちからわき腹にかけて肋骨の下(季肋部)に、抵抗と圧痛(押すと感じる痛み)を感じる腹部症状です。
  お血と胸脇苦満を示す患者さんには、柴胡桂枝湯 (さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などの漢方薬が処方されます。実際、網膜色素変性症の患者さんが、これらの漢方薬で、目の症状が改善される例が非常に多いのです。

全体で6割の人は進行が止まる
  これらの漢方薬でこの病気が改善した実例を紹介しましょう。
  8年前、36歳の男性が来院されました。5歳ごろから見えにくくなったそうで、初診時には、視野検査の感度が15度しかありませんでした(普通の人は60度)。
  この人は冷え症なので、暖かいときは柴胡桂枝湯ですが、寒くなると冷えを取る柴胡桂枝乾姜湯に替えています。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を使うこともあります。
  漢方薬の服用を続けたところ、視野の感度がだんだんと広がり、現在は20度ほどになりました。目の奥つまり眼底の写真を見ると、血行がよくなり、色素はふえていません。初診時の視力は、左右とも0.5。現在は左が1.0、右が0.7で、明らかに改善しています。
  7年前、22歳の女性が来院されました。18歳のとき網膜色素変性症と診断されました。母親も網膜色素変性症だったといいます。
  診察すると、やはりお血と胸脇苦満が認められたので、柴胡桂枝湯苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)桂枝茯苓丸の三種類の漢方を服用してもらいました。
  初めの1、2年は変化がなく、眼底写真ではやや進行しているようにも見えました。しかし、熱心に服用を続けたところ、3年後に視野が少し広がり、5年後にはさらに広がりました。通常は進行するのですが、進行が止まった状態が続き、視力は初診時からずっと左右とも1.2で変化がありません。
  この患者さんは、普通の人と全く変わらない生活をしています。3年前、この女性は結婚しました。この患者さんは母親から自分に遺伝したので、自分から子どもにはどうだろうかと心配していました。
  私はその可能性は否定しないけれども、きちんと対応すれば、あなたと同様に進行をおさえることもできるといって、出産を勧めました。漢方薬の胎児への影響も心配していたのですが、大丈夫と激励し、2年前に妊娠・出産されました。
  このように、漢方薬を使えば、この病気もうまくコントロールできます。何百人かの患者さんのうち、残念ながら2、3人は失明しました。しかしこの人たちは、ずいぶんひどくなってから来られた人でした。
  漢方薬の服用で、全体として50〜60%の人は進行が止まり、初診時の状態が維持されます。約5%の人はむしろよくなり、視野も視力も改善されています。残り約40%の人は徐々に進行しているように思えますが、寿命を全うするまでは不便を感じずに生活できると思われます。



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