鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2001年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。


八味丸

老化予防の名薬と呼ばれる
 八味丸(はちみがん)は、高齢者に最も多く処方される有名な漢方薬です。「高齢者の聖薬」、「老化予防の名薬」と呼ばれており、50歳を過ぎてこの薬を服用すれば、なかなか年も取らないし、ボケにくいといわれています。
八味丸のほかに、
八味地黄丸(はちみじおうがん)八味腎気丸(はちみじんきがん)の呼び名もありますが、どれも同じ処方のことです。
八味とは八種類の生薬(漢方薬の原材料となる草根木皮)でできているという意味ですが、あとで述べるように八味丸の主薬は地黄(じおう・ゴマノハグサ科のアカヤジオウの根を乾燥させたもの)であるところから八味地黄丸、弱った腎を強めるところから八味腎気丸と呼ばれることがあるわけです。
八味丸を構成する八種類の生薬とは、補血・強壮作用のある地黄、お血(血のうっ滞)を取り去る牡丹皮(ぼたんぴ・ボタン科のボタンの根皮)、気の流れをよくしてのぼせを解消する桂枝(けいし・クスノキ科のケイおよびニッケイ類の枝皮)、水の流れをよくする茯苓(ぶくりょう・サルノコシカケ科のマツホドの菌核)と沢瀉(たくしゃ・オモダカ科のサジオモダカの塊茎)、体を温める山茱萸(さんしゅゆ・ミズキ科のサンシュユの果肉)、精気を滋養する山薬(さんやく・ヤモノイモ科のヤマノイモの塊根)、冷えを取り去る附子(ぶし・キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根)です。
これらがとてもうまく調和して、中高年者の強壮、疲労回復、体力増強効果をもたらしてくれます。
八味丸の効能を表した江戸時代の川柳があります。

八味丸 飲んでるそばに いい女房

いい女房を持った男には八味丸が役に立つとか、八味丸を飲むと魅力的な女性が寄ってくるという内容を軽妙に表現したものです。八味丸は弱った腎を強力に補う薬であることが知られていたのです。
腎は、生命力、生殖能力、成長、老化をつかさどる働きと漢方では説明されますが、現代医学的にいえば腎臓、副腎(腎臓のそばいある内分泌器官)、脳下垂体(脳の下面についている突起状の内分泌腺)に対応する機能といえるでしょう。体の水分の新陳代謝をつかさどり、性ホルモンをはじめ各種のホルモンの分泌をコントロールしています。
腎機能は年を取るにしたがって弱り、腎虚になります。虚は衰弱するという意味です。歯が抜ける、目が弱る、耳が遠くなる、白髪がふえるなどの老化現象は腎虚です。また、老化していくと、たいていの人は足腰が衰えて下腹部が軟弱になり、精力も減退します。
八味丸はこうした老化現象、つまり、腎虚を改善する漢方薬なのです。飲んでいるうちに弱った足腰がしゃっきりとし、衰えていた目、耳などが改善し、全体として精力がおう盛になり、元気が出ます。

尿量がふえて夜間頻尿が解消
こうした老化予防の効果だけでなく、病気の治療にも優れた効果を発揮しています。下半身の腎に相当するところの血液のうっ滞や機能低下、排尿に関するものが多く、具体的には中高年の男性を悩ませる前立腺肥大症(尿道の後部を取り巻くクリの実のような形と大きさの男性生殖器)や前立腺の炎症、腎臓炎、膀胱カタル(膀胱粘膜の表層の炎症)、インポテンスに卓効を示します。
糖尿病の人にも、八味丸がすばらしい効果を示すことがたびたびあります。
また、白内障(目のレンズに当たる水晶体が濁る病気)の症状も改善されます。全身倦怠感、慢性疲労、腰痛、神経痛、ギックリ腰、高血圧、動脈硬化、高血圧などにも使われて効果を現しています。
八味丸は50歳を過ぎてくたびれた人、前立腺や糖尿病などの人なら、何も考えずに使って効果が得られる場合が少なくありません。とはいえ、漢方薬は証にもとづいて処方を決定するのが原則です。証とは、その人の体が示す漢方的な診断目標のことです。
八味丸の証で最も特徴的なのは臍下不仁(さいかふじん)と呼ばれる腹証(腹部に現れた診断目標)です。これは、ヘソの下の下腹部が、ふにゃふにゃとやわらかい、無力である、また、上腹部よりも下腹部のほうがさわったときの感覚が鈍いという意味です。あおむけに寝て、指先で下腹部を押して無力なら、臍下不仁で八味丸が適した証といえます。
50歳を過ぎて腎が弱り始めた人のほとんどは臍下不仁を示しているので、八味丸を使って大きな効果が得られるはずです。ただし、八味丸に適さないタイプの人もいます。かなり胃腸が弱い人、特に胃内停水や胃部振水音のある人には使えません。
走ったり、胃をこぶしでたたいたりすると、ピチャピチャと胃の中で水の音がする人がいます。この状態を胃内停水と呼び、その音を振水音というのです。胃の中で水の流れが悪く、胃腸が弱いことを示しています。
このような人が八味丸を飲むと、よけいにひどい胃腸障害に悩まされる心配があります。また、下痢ぎみな人も下痢がひどくなるので八味丸は使えません。そこで、胃腸が弱いけれども八味丸の恩恵にあずかりたいという人には、八味丸から桂皮と附子を取り除いた
六味丸(ろくみがん)という薬を用いるといいでしょう。
80歳の男性のAさんが、左腕の神経マヒと視力障害、足のむくみ、尿の出が悪いなどの症状を訴えて来院しました。八味丸の証を呈していたので、毎日6グラムの八味丸を飲んでもらいました。また、左腕の痛みが強いので、
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)も併用しました。
その結果、足のむくみも左腕の痛みも解消し、1回の排尿量がふえ、夜間の頻尿が解消したので、夜ぐっすりと眠れると喜ばれました。
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