鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2001年4月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。


柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

初期のカゼにとてもよく効く
漢方には、病気を進行度合いで区別する呼び方があります。多くの病気の初期には、病が体の表面にあって、頭痛、発熱、寒けなどの症状がでます。この時期を太陽病といいますが、太陽病の代表的な処方が桂枝湯(けいしとう)です。体力が衰えた人のカゼの初期、頭痛、神経痛、リウマチなどに用いられます。
病は、太陽病の次に少陽病に進みます。病は体の表面から少し体の中に入っていき、熱が出たり下がったり、みずおちがつかえて口の中が苦くなったり、のどが渇いたり、めまいがしたりします。少陽病の代表的な処方が小柴胡湯(しょうさいことう)です。小柴胡湯は横隔膜からみずおちのあたりの苦しい感じ、食欲不振、口の中が苦いなど、上腹部の不快症状を改善する薬です。
ちなみに、病は、このあと陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病と進みますが、これらの説明は省きます。
この桂枝湯小柴胡湯という二つの漢方薬を、一つに合わせて作った処方が柴胡桂枝湯です。
漢方では、生薬(漢方薬の原材料)に柴胡(多年草セリ科ミシマサイコの根)を使った処方を特別に柴胡剤と呼びます。
小柴胡湯をはじめとする柴胡剤の最大の使用目標は、胸脇苦満です。これは、肋骨の下縁の季肋部に充実感があり、そこに抵抗と圧痛(押すと感じる痛み)を感じる、という重要な腹症(腹部の診断目標)ですが、この胸脇苦満があれば柴胡剤が合うことが多いのです。
柴胡桂枝湯は、二つの漢方薬を合わせた薬ですから、病気の進行期でいうと、ひき始めのカゼのような病気で、少々頭痛がしたりしているが、口の渇き、みずおちの不快感なども出始めている、そんな太陽病から少陽病への移行期にぴったりなのです。
小柴胡湯は七種類の生薬からなります。
主薬は柴胡で、体の熱やみずおちのつかえを取り、半夏(はんげ・サトイモ科の多年草カラスビシャクの根茎)は吐き気を止め、黄岑(おうごん・シソ科の多年草コガネバナの根)は胃の働きをよくし、大棗(たいそう・クロウメノドキ科の落葉高木ナツメの果実)と人参(ウコギ科の宿根草チョウセンニンジンの根)は滋養強壮剤として働き、生姜(しょうきょう・ショウガ科の多年草ショウガの根茎)は体内の水をめぐらせて冷えを取り、甘草(かんぞう・マメ科の多年草カンゾウの根)は全体を調和させます。
一方の桂枝湯は、のぼせを取る桂枝(クスノキ科の常緑高木シナニッケイの枝の皮)、筋肉のけいれんを取る芍薬(キンポウゲ科のシャクヤクの根)など五種類の生薬からなりますが、桂枝と芍薬を除く三つは大棗、生姜、甘草で、小柴胡湯と重複しています。

網膜色素変性症の良好な治療成績
このように二つの漢方薬が一つになることで、カゼ、インフルエンザ、肋膜炎(胸郭内部の臓器を包む肋膜の炎症)などのカゼの初期か少し進んだ状態、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、大腸炎、胆石症、膵炎などの胃腸の病気、頭痛や関節炎などの痛みの病気、ノイローゼや神経衰弱などの精神神経症状、かゆみ、湿疹などの皮膚の病気、あるいは結膜炎(目の結膜の炎症)、緑内障(眼球内の圧力である眼圧が異常に高まる病気)などの目の病気と、柴胡桂枝湯の応用範囲は非常に広がっています。
これらの病気で、体力が中間から少し虚症(体力が弱いこと)にかけての人たちに効果を示します。
このようにさまざまな病気に有効ですが、最近、特に注目されているのが、網膜色素変性症という病気への治療効果です。網膜は、眼球内でスクリーンの役目を果たしているところです。つまり、目をカメラにたとえたときに、フィルムに当たるのが網膜というわけです。
この網膜の裏側にある色素が、網膜の表面ににじみ出てきて色素沈着が起こり、網膜がにごって、像がうまく結ばれなくなり、しだいに視野が狭窄(狭くなること)し、ついには失明してしまう病気なのです。
この病気は遺伝的な要因が強く、患者さんの父母、祖父母、曾祖父母などが夜盲症、色盲だった場合がしばしばあります。
また、比較的近親者どうしの結婚が関係しているとも考えられています。
網膜色素変性症の症状が現れてくるのは中学生、高校生などの若い時期ですが、ときには中高年になって現れることもあります。進行性で、やがて失明に至る病気ですが、原因がはっきりとわからないので現代医学的に確立された治療法はまだありません。
この網膜色素変性症に対して、柴胡桂枝湯が卓効を示す場合が少なくないのです。
私の先輩で、昌平クリニック院長でもあった藤平健先生(故人)は、網膜色素変性症の患者さんに、胸脇苦満とへその周りの圧痛という柴胡剤の診断目標が多いことに気づきました。
へその周りの圧痛はお血(おけつ・血液の滞り)を示す腹症で、お血を改善するための駆お血剤が用いられます。
そこで藤平先生は、胸脇苦満とお血を示す網膜色素変性症の患者さんに、柴胡桂枝湯と駆お血剤を併用して、非常に良好な治療成績を得たのです。
従来、進行して失明に至るケースが多かったのに、進行が止まり、あるいは緩やかになり、失明を免れる患者さんがふえたと報告しています。
私も網膜色素変性症の患者さんに、柴胡桂枝湯と駆お血剤(主として桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の併用を行いましたが、確かに進行が止まり、視野が広がっていくという効果が得られました。
若い人ほど効果があり、半年ほど服用を続けると、何らかの効果が実感できます。
藤平先生は6年飲み続けたら、あとは飲まなくてもいいといっていましたが、1〜2年の服用でかなりよくなることもあります。
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