鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2001年5月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。


補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

気力と体力を補う名薬
補中益気湯は、数ある漢方薬の中で、「医王湯」(いおうとう)の別名を与えられたほどの、非常によく効く優れた漢方処方です。その働きは、処方名に簡潔に表されています。つまり、中(胃腸)を補って、気を益する(増強すること)薬という意味です。
漢方は、気(一種の生命エネルギー)・血(けつ・血液)・水(すい・水分)の医学といわれます。この三つの要素が過不足なく順調に体の中をめぐることによって、健康が保たれるのですが、なかでも「気」が最も重要です。
まず、気がじゅうぶんに働いて、次に血と水も働くことができるという具合に、気は健康の根源といえます。
ところが、胃腸が丈夫でなく、じゅうぶんなエネルギーを体内に取り入れられなくなると、気が衰えます。気力が衰える、元気がなくなる、病気になるなどは気が活発でなくなった状態を表す言葉です。気の活力が低下すると、血や水のめぐりも悪くなり、さまざまな不調や病気の原因になるわけです。
こうした状態の人の胃腸を活発にして、疲労や倦怠感を取り除き気力を増強するのが補中益気湯です。

この処方は以下の10種類の生薬(漢方薬の原材料)で構成されています。
人参
(にんじん・ウコギ科の宿根草オタネニンジンの根)
黄耆(おうぎ・マメ科のキバナオウギおよびナイモウオウギの根を乾燥させたもの)
白朮(びゃくじゅつ・キク科のオケラの根茎)
当帰(とうき・セリ科のトウキおよびホッカイトウキの根)
陳皮(ちんぴ・ミカン科のウンシュウミカンの成熟果実の果皮)
大棗
(たいそう・クロウメノドキ科の落葉高木ナツメの果実)
柴胡(さいこ・多年草セリ科ミシマサイコの根)
甘草(かんぞう・マメ科の多年草カンゾウ類の根)
乾 生姜(かんしょうきょう・ショウガ科のショウガの根茎を乾燥させたもの)
升麻(しょうま・キンポウゲ科のサラシナショウマおよびオオミツバショウマなどの根茎)

このうち、中心になって働くのが人参黄耆です。人参黄耆が入った処方は人耆剤(じんぎざい)と呼ばれ、体力と気力をふやす補剤には多くの人耆剤があります。人耆剤が中心になり、生体の防御機構が増強され、免疫(病原菌から体を守るしくみ)が賦活され、気力と体力が補われる、と現代的には解釈できるでしょう。

五月病などの慢性疲労症候群に有効
この補中益気湯については、江戸時代の漢方医である津田玄仙が、8項目の使用目標を定めました。
(1) 手足がだるくてしかたがない
(2) 声がよく出ない
(3) 目に力がない
(4) 口の中に白いあぶくがたまる
(5) ものを食べても味を感じにくい
(6) 冷たい飲食物より温かいものを好む
(7) 腹部に動機が打っている
(8) 脈がふわふわとして力がない

この8項目の目標は非常にわかりやすく、今日でも十分に通用するものです。
このうちのいくつかそろっていれば、補中益気湯を使用することで、病気や不調が改善される可能性が大ということになります。現代人の多くの病気や半健康状態の背景には、この処方が奏効する気の衰弱があると考えられます。
現代の病気の中で、補中益気湯が適応するのではないかと注目されるのが慢性疲労症候群です。体力、気力が低下して、仕事ができない、学生なら授業に出られないなどの症状が続くものです。
以前なら「あいつは怠け者だ」「しょうがないやつだ」と脱落者のレッテルを貼られたものです。しかし、最近の研究によって、ただの怠けぐせではなく、感染、内分泌、ストレスなどがかかわる病気のようだということがわかってきました。
そして、これらの検査をすると、免疫機能も低下していることが判明しています。ちょうど5月ごろに、こうした症状で出社できない、授業に出られない人たちが現れ、「五月病」と呼ばれることがありますが、五月病の中にも慢性疲労症候群に当てはまるものが、少なくないのではないかと考えられています。
慢性疲労症候群は世界的にも問題にされており、厚生労働省もその診断基準を設けています。そうした症状を訴える人で、肝臓の機能が低下して肝機能検査値が悪い、腎臓が悪い、血尿が出る、肺結核があるなどの、はっきりとした病気がある場合は、慢性疲労症候群からは除外されます。

そのうえで、次の11項目を挙げています。
(1) 6ヵ月以上持続するか反復する著しい全身の倦怠感
(2) 微熱、寒気がある
(3) のどの痛みがある
(4) 首のリンパ腺が腫れている
(5) 筋力が低下する
(6) 肩などの筋肉痛がある
(7) 頭痛がする
(8) 腰、ひざ、手首などを移動する関節痛がある
(9) まぶしい、もの忘れがひどい、集中力の欠如、思考力の低下などの精神神経症状がある
(10) 眠れない、あるいは寝すぎるなどの睡眠異常がある
(11) 以上のような症状が突然に起こり、体が疲れてしまう

これらのうちの8項目以上が当てはまれば、慢性疲労症候群と考えて差し支えないとされます。そして、慢性疲労症候群と診断された人の多くは、さきほど述べた補中益気湯の使用目標がおよそ当てはまり、そんな人に用いてみると、的中する場合がしばしば見られることなのです。
補中益気湯を服用していると、胃腸が丈夫になり、顔色がよくなり、だんだんと気力が充実していきます。それに伴って、さまざまな症状が解消、改善し、出社できない、登校できないなどの問題も解決していくのです。
ちょうどこれからの時期、就職、移動、昇進などによる新しい環境でストレスを受け、体調をくずす人が出てきます。そうした人たちに補中益気湯は一度は試してみる価値のある漢方処方と考えます。薬の効き目が実感できるのは、服用を1ヶ月ほど続けた後ごろからです。効き目が現れても、すぐには服用を中止せず、半年ほどは飲み続けてください。
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