鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2001年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。

加味逍遥散(かみしょうようさん)

女性の更年期障害を改善する名薬
加味逍遥散は女性の更年期障害を改善する漢方薬として非常に有名です。とはいえ、更年期障害だけに効き目を現すわけではありません。
この処方が用いられて効果を発揮するのは、不定愁訴が非常に多い患者さんです。なんともとらえようのない症状がたくさんあり、あそこも悪い、ここも悪いと訴えるようなケースです。
その不定愁訴は、頭が重たい、肩がこる、めまいがする、眠れない、夢をよく見る、汗をかく、顔が紅潮する、動悸がする、足が冷える、顔がのぼせる、口が渇き苦い、無気力でうつ的、逆上しやすい、女性の場合は生理不順がある、など多岐にわたります。
このようにあれこれと訴えが多く、やや体力の低下した虚証(体力が虚弱なこと)から中間証(体力が中等度であること)までの人には、加味逍遥散がしばしば卓効を現すわけです。
この薬は中国の宋の時代、陳師文らが1107年に編さんした『和剤局方』に記された処方です。
昔から中国でもあれこれと不定愁訴の多い病気があったのでしょう。古典などを見ると、加味逍遥散は「ご婦人いっさいの申し分に用いて非常によく効く」という意味のことが記されています。この場合の申し分とは非難・不平など神経的な不定愁訴のことです。
加味逍遥散がつくられる以前には、
柴胡(さいこ) ミシマサイコの根
当帰(とうき) トウキの根
芍薬(しゃくやく) シャクヤクの根
白朮(びゃくじゅつ) オケラの根茎
茯苓(ぶくりょう) サルノコシカケ科のマツホドの菌体
生姜(しょうきょう) ショウガの根茎
薄荷(はっか) ハッカの葉
甘草(かんぞう) カンゾウの根
の八種類の生薬(漢方薬の原材料となる草根木皮)からなる逍遥散(しょうようさん)という薬が用いられていました。
この逍遥散も、いろいろな訴えが多く、なんとなくふらふらする、精神が落ち着かないなどに用いられて効果を示していました。
ところが、この八種類の生薬に
牡丹皮(ぼたんぴ) ボタンの根皮と
山梔子(さんしし) クチナシの果実
の二つを加えて(加味して)、10種類の生薬からなる新しい漢方がつくられました。これが加味逍遥散というわけです。加味逍遥散は応用範囲が非常に広く、よく効くため、逍遥散が用いられることはほとんどなくなりました。

男性の肝臓病にも用いられる
加味逍遥散の主薬は柴胡、当帰、芍薬の三つです。柴胡は上腹部の熱感や肝機能障害を改善し、当帰は血を補い、お血(おけつ・血液が滞ること)を解消して、女性の血の道といわれるさまざまな症状を改善し、芍薬はけいれんや痛みを取り除きます。
白朮茯苓は胃腸を丈夫にして利尿効果をもたらし、生姜は胃腸を丈夫にして吐き気を止め、薄荷は清涼作用と鎮静効果を持ち、甘草は調和をはかります。そして、新たに加味された牡丹皮は、お血を強力に改善し、山梔子は黄疸(肝汁色素であるビリルビンが血液中にふえた状態。皮膚や粘膜が黄色くなる)や熱を取り除きます。
こうした生薬の構成からも、この処方はお血による不調の改善に活躍することがわかります。昔はお血といえば、体の特定の部位に古い血が滞って、それがさまざまな病気のもとになる、と観念的にとらえられていましたが、現在ではお血は血液の滞りと考えられています。
女性の子宮に血液が充満し、出血する生理はお血そのものと考えられ、生理に伴う種々の不調は、お血を改善する駆お血剤によって治療されてきました。加味逍遥散はそんな駆お血剤の代表的な処方なのです。
ただし、先ほど申し上げたように、単なる生理に伴う不調にとどまらず、それも含めてとらえようのない訴えの多いものによく効くということです。加味逍遥散が更年期障害の薬のようにいわれるのは、訴えが非常に多い更年期障害の患者さんに、よく効き目を発揮するからです。
女性に使用されることが多いのですが、男性にも使用されることはあります。生薬として柴胡が使われているので、肝臓の不調や肝硬変の治療にも使用されることがあります。

3ヶ月ですべて改善
それでは、加味逍遥散が効き目を示した実例を紹介しましょう。
45歳の女性のAさんは仕事が非常に忙しい人ですが、ときどき生理不順になる、疲れが高じると生理が来なくなることがある、手のほてり、眠気、体が疲れる、汗をかきやすい、のどの不快感、便秘、足の冷え、腰痛など多彩な症状を訴えました。
身長は155センチで体重は42キロ、やややせていて色白で、血圧はやや低めで最大血圧105ミリ、最小血圧60ミリでした。体力は中等度よりも虚証と思われました。
加味逍遥散とともに、強い冷えを改善する当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を処方しました。この二つの漢方薬を服用していたところ、だんだんと冷えが取れて体調がよくなってきました。
みずおちに認められたつかえ感や動悸が解消し、へその左右に認められていたお血も取れて生理が順調になってきました。舌がでこぼこしていましたが、それも取れました。
不調が改善するまで約3ヶ月かかりましたが、元気に仕事ができるようになったととても喜ばれました。食欲もでて、加味逍遥散を手放さずにずっと続けておられます。

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