鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2001年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。


麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

セキが出てから飲んで効果を現す
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)は、気管支ぜんそく、気管支炎、乳幼児のカゼ、百日ゼキなど、セキに悩まされるときの第一選択薬です。
麻杏甘石湯という名前は、四つの漢字に、煎じ薬であることを示す「湯」の字がついていますが、四つの漢字はそれぞれ生薬名を表しています。生薬というのは漢方薬の原材料となる草根木皮のことです。
麻杏甘石湯の「麻」は麻黄(マオウ科の多年草マオウの地上茎)です。この生薬は気管支の筋肉のけいれんを鎮めるエフェドリンという成分を含んでいます。漢方的には、体の表面にある余分な水分を除くとされ、セキの原因になっている気管支の表面にたまった水分を取り除いてセキを鎮めるのです。
「杏」は杏仁(バラ科の落葉小高木アンズの種子の外殻を除いたもの)です。これも、余分な水分を追い払い、水毒を改善する作用があります。やはり肺の中にたまった水分を除去してセキを止めます。杏仁水(きょうにんすい)といって、セキ止めに単独で使われることがあります。
「甘」は甘草(かんぞう・マメ科の多年草カンゾウの根)です。多くの漢方薬に使われていますが、けいれんを鎮める作用とともに、いろいろな種類の生薬のバランスを整える調和剤の役目を果たしています。
「石」は石膏(天然の軟石膏)です。石膏は、裏の水を巡らせます。裏とは体の内部のことです。体の中に停滞した水を流すということで、体の表面の水を除く麻黄とは作用する部分が反対ということになります。石膏は、熱を冷まして体を冷やす清熱剤でもあります。水分を除き、発熱を冷まして、のどの渇きとセキを鎮めます。
これらの生薬が一体になったのが麻杏甘石湯で、ぜんそくなどのセキを効果的に鎮めます。ぜんそくを治療する薬には、ふだん、発作が起こる前から飲み続けて発作を予防するタイプの薬がありますが、麻杏甘石湯はそのタイプではありません。セキが出て、発作が始まってから飲んで効果を発揮するタイプなのです。

体内の水分の流れを改善してくれる
この処方の使用目標は、セキが出て、発作が始まり、ゼイゼイという喘鳴が起こっていることです。そのとき、冷や汗をかいていたりしています。のどが渇いていることもあります。
体の中をスムーズに循環しているはずの水分がうまく巡らなくなり、気管支の表面にたまったり、冷や汗が出たり、のどが渇いたりしているため、セキの発作が出るわけです。
そんな状態のときに服用すると、体の表面や内部の水分をうまく循環させ、熱を冷まして、みごとに呼吸困難とセキを鎮めるのが麻杏甘石湯なのです。
麻杏甘石湯が適合するのは、体力が中等度から実証(体力が充実しているタイプ)にかけての人です。虚証(体力が虚弱なタイプ)の人にはあまり合いません。
ぜんそくの発作が出ているとき、水分の流れの不調の現れとして、冷や汗やのどの渇きのほかに、顔のむくみ、尿量の減少などが起こっていることもあります。
このように、麻杏甘石湯はセキを鎮める妙薬として、気管支ぜんそくの発作(ときには心臓ぜんそくにも使われます)、気管支炎、気管支拡張症、百日ゼキ、肺炎、ジフテリアなどの治療に用いられます。麻杏甘石湯を単独で用いてもいいのですが、症状に応じて、ほかの処方と併用すると、いっそう効果が高まる場合があります。
セキが出ているときに、みずおちや季肋部(肋骨の下端の部分)がつかえる感じがするときには、 柴胡桂子湯(さいこけいしとう)を併用することがあります。また、精神不安やのどのつかえ、吐きけなどが伴うときは、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を併用することがあります。
それでは、麻杏甘石湯でセキを鎮めた実例を紹介しましょう。

発作を忘れて生活でき助かる
55歳の女性のAさんは、20歳ごろから気管支ぜんそくの発作が起こっていたそうです。カゼをひくと、すぐにゼイゼイといって発作が始まります。すると、息苦しくて眠れなくなり、呼吸困難に陥るそうです。夜中から明け方にかけて、ヒューヒューと鳴って眠れなかったことを何度も体験したといいます。
Aさんは身長が150センチ、体重は48キロで、少し太りぎみです。最大血圧が160ミリ、最小血圧が90ミリと、血圧が高めでした。
やや粘っこくて黄色いタンが出るそうです。セキがひどくなると血タンがでることもあります。タバコは吸わず、アルコールも以前は飲んでいたけれども、ぜんそくの発作が出るようになってからやめました。
とはいえ、しょっちゅうぜんそくに悩まされているわけではなく、セキが出ないときは元気にテニスを楽しむような人です。体力は虚証と実証の間の中間証と考えられました。
セキが出るとき、みずおちがつかえた感じがするというので、麻杏甘石湯とともに 柴胡桂子湯を出して、発作のときに飲んでもらいました。すると、発作時にこの二つの薬を飲むと、1日か2日で発作が軽くなり、1週間もするとすっかりよくなると報告してくれました。
その後、何ヶ月かは発作を忘れて生活ができ、忘れたころにまた出てくるのですが、麻杏甘石湯柴胡桂子湯を飲めば、すぐに楽になるのでとても助かると喜んでくれました。
これから冬場を迎え、ぜんそくの発作に悩まされる機会も増えるかと思います。麻杏甘石湯を常備して、発作の軽減に役立てていただきたいものです。
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