鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事を要約したものです。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯 (とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

手足の血行を改善する名薬

   漢方の古典には、「四逆」という言葉がたびたび出てきます。いったいどんな意味かといいますと、「四」は四肢、つまり手足のことです。「逆」とは、厥逆つまり末端から血行が途絶えてしまうことです。
 したがって、四逆とは手足の血行が途絶えて、指先から冷えてくることを意味します。こうした四逆の状態を改善するための処方が、いくつも開発されています。
漢方では、いろいろな処方の基礎になる基本処方がありますが、桂枝湯(けいしとう)もその1つです。
桂枝(けいし) クスノキ科の常緑高木シナニッケイの枝の皮、
芍薬(しゃくやく) キンポウゲ科の多年草シャクヤクの根、
大棗(たいそう) クロウメモドキ科の落葉高木ナツメの成熟した果実、
生姜(しょうきょう・ショウガ科の多年草ショウガの根茎)、
甘草(かんぞう・マメ科の多年草カンゾウの根)
から構成され、体を温め諸蔵器を活性化する働きがあり、カゼのときに用いられます。この桂枝湯をもとに、生姜を除き、
当帰(とうき・セリ科の多年草トウキの根)、
細辛(さいしん・ウマノスズクサ科の多年草ウスバサイシンなどの根)、
木通(もくつう・落葉藤木アケビ科のアケビなどの茎)
を加えたのが、当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)で、手足の冷え、腹満、冷えによる痛み、腰痛などを改善します。
 この薬は四逆(手足の冷え)を取る作用が強く、冷え性の第1選択の薬として用いられますが、私はこの処方でバージャー病(後述)の患者さんを治療した経験があります。
 バージャー病とは、主に手足の動脈の壁が原因不明の炎症によって厚くなって動脈が詰まり、血が通わなくなり、手足の先に治りにくい傷ができたり、手足の一部が腐ったりする病気です。その患者さんも、主治医から、もう足を切断するしかないといわれたのですが、当帰四逆湯を用いて血行が改善し、足の切断を免れたのです。

尿の出もぐんと促す
 この当帰四逆湯に、さらに呉茱萸(ごしゅゆ・ミカン科の落葉小高木ゴシュユの果実)と生姜を加えたのが当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。
 当帰桂枝は血行を改善します。細辛はセキ止めに使われますが、ここでは腹部を温めて腹痛を鎮めます。芍薬大棗甘草は、筋肉の緊張を緩め、腹痛を和らげます。木通は体の水はけをよくして利尿作用を高めます。呉茱萸は胃腸を丈夫にして、痛みを鎮めます。生姜は、体を温めて、水の巡りをよくして、吐きけを止めます。
 血液の循環が悪くなると、手足や腹部が冷えてきます。腹部が冷たくなると、腸の動きが悪くなり、ガスがたまっておなかが張ります。また、血の流れが悪くなると、筋肉がこわばって、体の節々が痛くなるものです。
 体が冷えると、血液だけでなく、水の流れも悪くなり、水にまつわる不調が現れ、尿の出も悪くなります。さらに、血行が悪くなって体が冷えると、新陳代謝(体の古いものと新しいものが入れ替わること)も非常に衰えてしまいます。すると、体がだるくてたまらなくなるのです。
 このように、血行不良による強い冷えが原因で起こる腹満、腹痛、腰痛、座骨神経痛、腹膜炎(腹部の内臓の表面を覆っている膜に起こる炎症)、頭痛、吐きけ、疲労倦怠感、冷え性そのものなどの改善に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は卓効を現す漢方薬です。
 当帰四逆湯当帰四逆加呉茱萸生姜湯の関係は、前者が適応する症状よりも、うんと冷えが強力になったものに後者を用いる、というふうに考えられがちですが、それはわかりやすいようで、実はわかりにくいのではないかと思います。当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いるポイントは、強い冷えやそれに伴う諸症状とともに、水はけの悪さによって起こる症状(水毒)があることです。
 つまり、強い冷えなどとともに、吐きけ、頭痛、めまい、おう吐、冷や汗、不眠、むくみ、尿量の減少、上腹部振水音(みずおちを手でたたいたり、走ったりしたときに、胃の中で水の音がすること)、頭重、セキなどの水の症状が伴うときは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯がみごとに奏功するのです。

リウマチも腰痛も軽快した
 それでは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いた実例を紹介しましょう。
 47歳の女性のAさんは、関節リウマチの治療のため、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)などの漢方薬を服用して、一定の効果を上げていました。
 ところが、あるときから、微熱が出て、強い冷えを自覚するようになりました。もともと体の水はけがよくない兆候を示していた患者さんだったので、当帰四逆加呉茱萸生姜湯に体を温める作用の強い附子(ぶし・キンポウゲ科のトリカブトなどの根茎)を加えたものを服用してもらいました。
 すると、発熱しなくなり、冷えが取れて、とても調子がよくなりました。寒い時期にはさらに附子を増量したところ、リウマチも腰痛も軽快したといういうことです。
 その後、中耳炎を起こしたので、一時的に当帰四逆加呉茱萸生姜湯を中止し、ほかの薬を使用しましたが、その後はやはり当帰四逆加呉茱萸生姜湯を希望して服用され、とても体調がよくなりました。
 3年ほど服用を続けましたが、冷え性がよくなったので、最近は冷えを取る作用が軽い処方に変更しています。



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