漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 潰瘍性大腸炎 】

以下は、「安心」2001年4月号の永久保存別冊付録[腸の悩み解消大辞典]に掲載された記事です。


弱った体力を回復させながら再発をくり返す潰瘍性大腸炎を治す漢方治療
血便がある急性期は桃花湯か大桃花湯
 血便や粘血便(粘液や血液のまじった便)を伴う下痢が続き、腹痛に悩まされる潰瘍性大腸炎は、厚生省の難病に指定されています。ひどい人では1日に10回以上もトイレにいかなくてはならず、日常生活にも深刻な影響を及ぼす病気です。
 大腸内視鏡で腸内を見ると、粘膜の表面にびらん(ただれ)や潰瘍ができているため、粘膜が真っ赤に炎症を起こしていることがよくわかります。潰瘍は、肛門に近い直腸からS状結腸の上方までの間にできることが多いのですが、進行すると大腸全体に及ぶこともあります。
 原因はいろいろな説があり、局所的な免疫(病原体を打ち負かす働き)の異常ともいわれていますが、まだ解明されていません。
 最近の数字を見ると、申請された潰瘍性大腸炎の患者数は、年間6万人近くになっています。しかし、ストレスがふえ、免疫力の低下がいわれる昨今、この病気で悩んでいる人は、実際にはもっと多いのではないかと感じています。
 私のところにも、潰瘍性大腸炎で来院される人が増えています。その多くは、サラゾピリンという薬を処方されたのだが、半年、一年たっても改善が見られない、あるいは改善しても再発をくり返す、といったケースです。
 原因がハッキリせず、西洋医学の治療で治りにくい病気に、漢方治療が効果を発揮することがよくありますが、潰瘍性大腸炎もその一つです。というのも、この病気は腸から出血するので、栄養の吸収が悪くなります。なかなか病状が改善されないと体力が落ち、体重がどんどんへっていきます。そんなときには、ただ作用の強い薬を与えるより、一方で体力の回復を行いながら、もう一方で病変を治していく、というような治療法が有効だからです。
 東洋医学では、本来、人間の体において調和を保っているはずの気(き・一種の生命エネルギー)、血(けつ・血液)、水(すい・リンパ液などの体液)のバランスがくずれたために病気が起こると考えます。ですから、まずはそれらのバランスを整えて、体の調子をよくすることを目ざします。当然弱った体力の回復ということも治療に含まれています。
 そこで、血便の出ている急性期には桃花湯
(とうかゆ)大桃花湯(だいとうかゆ)を使い、血便がおさまったら胃風湯(いふうとう)紫苓湯(さいれいとう)啓脾湯(けいひとう)に処方を変えます。そして、痛みのあるときには、小建中湯(しょうけんちゅうとう)人参湯(にんじんとう)真武湯(しんぶとう)、なども使うというのが、私が潰瘍性大腸炎の治療で効果をあげている処方です。
 桃花湯には収斂作用(幹部の血管を収縮させて組織の乾燥を促し、痛みや腐敗を防ぐ働き)や止血作用、体を温めて冷えを取る作用があります。大桃花湯は、桃花湯と同じく収斂・止血作用にすぐれ、体を温めることに加え、胃への刺激が弱いことが特徴です。
 胃風湯には、慢性的な腸粘膜のびらんを取る働きがあります。直腸および直腸に近いところに、潰瘍がある場合に効果的です。紫苓湯啓脾湯は体内の水毒(水分代謝の異常)を調節する利水剤が多く含まれた処方で、胃にもやさしい薬です。
 実際の症例を見てみましょう。Mさん(男性・63歳)は、30歳のときに潰瘍性大腸炎と診断され、サラゾピリンで回復しました。ところが1993年に再発し、下痢、腹痛、血便に悩まされ、再度サラゾピリンを飲むことになりました。
 このときは約2ヶ月で血便が止まったのですが、1997年にまたも粘血便と下痢を起こし、今度はサラゾピリンとステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)を飲んでも、症状がおさまりません。午前中だけで5回、ときには夕方にも粘血便が出る日々が2ヶ月間続き、体重が5キロへったところで、当クリニックに来院しました。
 Mさんには桃花湯に加えて、中程度の胸脇苦満(肋骨の下あたりのつっぱり感)があり、お血(血液の滞り)がひどかったので、紫苓湯桂枝茯苓丸
(けいしぶくりょうがん)を処方しました。すると2週間で水用便が固まってきました。1ヶ月で便に血がまざらなくなり、2ヶ月で正常便に戻りました。
 排便回数も、朝食後の2回だけになり、この時点でMさんは、ずっと飲んでいたサラゾピリンなどの薬もやめています。そして、さらに3ヶ月桃花湯を飲んでから、啓脾湯紫苓湯桂枝茯苓丸の処方に変えました。このころは、来院時に63キロだった体重も66キロに戻り、つらい症状もすっかり消えていました。
 治りにくく、再発をくり返すのも潰瘍性大腸炎の特徴の一つですが、桃花湯大桃花湯が予想外に効くことを、最近の治療例で強く実感しています。なかなかよくならずお手上げ状態のとき、下痢が続いて体力が落ちているようなときには、とくに漢方治療がおすすめです。

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