漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 網膜色素変性症 】

以下は、「安心」2001年10月号の『近視、老眼一掃!No.1 視力回復法』に掲載された記事です。


難治の網膜色素変性症による視野狭窄や視力低下が漢方治療で改善している

決め手となる治療法は確立されていない

 人の眼球は外側を強膜という不透明な膜に包まれており、中には硝子体というゼリー状の物質が詰まっていますが、黒目の前面だけは、透明な隔膜に覆われています。
 隔膜を通して黒目の中心にある瞳孔から外界の光が眼球に入り、水晶体にぶつかって屈折してから、眼球の内壁をおおう網膜に達し、像を結ぶ。これが、人が物を見る仕組みです。網膜に映し出された画像は、視神経を通して脳に送られ、私たちは物の色や形を認識するのです。
 この、画像が映し出されるスクリーンである網膜の表面に、褐色の色素がにじみ出てくるのが網膜色素変性症です。色素でスクリーンが汚れると、そこに結ばれる画像も不鮮明になり、暗いところで物が見えにくくなる夜盲や、見える範囲が狭くなる視野狭窄、視力の低下などが起こってきます。
 汚れの度合いが進めば、画像が映らなくなる、つまり物がよく見えなくなってしまうこともあります。また、網膜のうち、画像が結ばれる部分を黄斑部といいますが、黄斑部に変性が起こってしまうと、見たい物の中心部が見えなくなるので、かなり不自由です。。
 網膜色素変性症の原因は、まだよくわかっていませんが、遺伝的な要因がかなり関係しているようです。そして、皮膚がカサカサになったり、シワが寄ったりするのと同じく、老化現象(退行変性)の一つだといえます。そのため一般には、進行を止めるか遅らせるかの治療しかないと考えられています。
 そこで西洋医学では、血流をよくする薬や、ビタミン剤などを用いますが、これが決め手という治療法は確立されていないのが現状です。しかし最近の統計では、失明に至るのは1%以下という数字が出ているのが救いです。
 けれども、一度失われた皮膚のツヤがよみがえることもあるように、見え方が回復することもあります。東洋医学的な立場から目の病気に精力的に取り組んでこられた故・藤平健先生の実績があるため、網膜色素変性症で私のクリニックを訪れる人が多いのですが、視野が広がり、視力が上がった例が何例もあるのです。
 東洋医学的に網膜色素変性症の人を診ると、冷え性で低血圧の人が多くいます。さらに、たいていの人には胸脇苦満と呼ばれる肋骨あたりの抵抗感と、お血(おけつ)と呼ばれる血液循環の滞りが見られます。
 そこで治療には、胸脇苦満を改善させる柴胡剤と、お血を改善する駆お血剤とを使います。。
 柴胡剤とは生薬(漢方薬の原材料)であるミシマサイコの根を配合した漢方薬の総称で、大柴胡湯(だいさいことう)小柴胡湯(しょうさいことう)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などがあります。駆お血剤は、血液の滞りを改善させる漢方薬で、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などです。 7〜8割の人には、体力が中等度の人向けの柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸を組み合わせた処方が効果的です。体力が弱い人には、柴胡桂枝乾姜湯当帰芍薬散を組み合わせて使ったり、便秘の人には桃核承気湯を使ったりします。すると、たいていの場合は網膜の色素変性が止まるか、あるいは進行がきわめてゆっくりになるのです。

病気の進行が止まり視野が回復した
 症例をご紹介しましょう。5歳ごろから夜盲症だったAさん(40歳・男性)は、36歳のときに会社の人間ドックで網膜色素変性症と診断されました。そして、知人の紹介で私のクリニックを訪れ、柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸による漢方治療を始めました。
 治療は順調で、4年たっても病気は進行していません。それどころか、10度程度だった視野は15度まで広がり、両目とも0.5だった視力は、平均で0.8になっています。
  Bさんという女性は、20歳ごろから夜盲や視野狭窄などの見え方の異常を感じるようになりました。母方の祖父が網膜色素変性症だったため、すぐに病気だと気づいたのですが、治療法がないといわれてそのままにしていたのです。25歳のとき、妊娠をきっかけに漢方治療を始めた時点では、両目とも視力0.6でした。
 けれども、柴胡桂枝乾姜湯桂枝茯苓丸を、産前産後を除いて妊娠中もずっと飲み続けたところ、見え方の異常が止まりました。漢方治療を開始して4年後いまでは、視力は0.8に回復し、視野もやや広がるという良好な経過を得ています。
 このように、若いうちから治療を始めると非常に経過がよいので、夜盲など見え方に異常を感じたら、眼底検査をして網膜色素変性症の早期発見に努めることをおすすめします。ときどき片方の目で物を見ることも、見え方の異常の発見に役立ちます。
 また、漢方薬を飲み始めるとその時点で病気の進行が止まることが多いのですが、そこでやめてしまわず、半年から6年は漢方薬を飲み続けた方が、治療成績は格段によくなります。漢方治療の経験を積んだ医師の指導のもとで服用すれば、副作用の心配もありません。

line

漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。



Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます