虫眼鏡のイラスト現代医学がさじを投げる病気にも著効を現す「漢方薬」の優れた効果
杏林大学名誉教授・昌平クリニック院長  鍋谷 欣市
  進歩発展を遂げてきた現代医学でも、治しにくい難病があります。そうした病気に、漢方が優れた効果をあげている例が見られるのです。そこで、漢方の名医である鍋谷欣市先生に、難病に対する漢方薬の効能についてうかがいました。
clover難治の潰瘍性大腸炎に著効を現す桃黄湯
  現代医学がさじを投げてしまうような難病に、漢方が優れた効果を現すことがあります。
  一つは潰瘍性大腸炎です。この病気は、大腸の粘膜に炎症が生じて粘血の下痢便が頻繁に起こり、貧血や腰痛、人によっては発熱や頻脈(心拍数が増加している状態)が見られるのが特徴です。
  患者数が急増しており、現在、日本には一○万人の患者がいるといわれています。患者数が増えている原因は明らかではありませんが、生活様式や食事、個人の抵抗力の低下などが関係していると考えられます。
  西洋医学では、潰瘍性大腸炎の治療にサラゾピリン、ペンタサという薬がよく用いられます。炎症が強い場合は、プレドニンなどのステロイド剤を用います。しかし、いずれも症状をコントロールする薬で、根本的な治療にはつながりません。
  漢方では従来、胃風湯(いふうとう)柴苓湯(さいれいとう)啓脾湯(けいひとう)などを用いてきました。これらも効かないわけではないものの、絶対というわけではありませんでした。
  そこで、なんとか漢方で治すことができないかと検討を続けてきた結果、たどりついたのが桃黄湯なのです。
  これは、桃花湯(とうかとう)黄土湯(おうどとう)の変方を組み合わせて、私が作った漢方薬です。桃花湯黄土湯も、昔から赤痢や疫痢の出血に用いられてきた薬です。
  これまで、私のクリニックでは、四○○例以上の潰瘍性大腸炎の患者さんに桃黄湯(とうおうとう)を用いてきました。その結果、桃黄湯は潰瘍性大腸炎に非常によく効くことが判明しました。著効、有効例を合わせると、約七○%に改善効果が見られたのです。
  桃黄湯
啓脾湯を処方したある患者さんは、二ヵ月でほぼ改善し、五ヵ月で正常な便になりました。
  桃黄湯がこれほど効果を現すのは、なぜでしょうか。
  潰瘍性大腸炎は免疫(体の防衛機構)の主役である白血球のうち、顆粒球がふえすぎたために起こります。顆粒球は活性酸素(毒性の強い酸素分子)を出すので、顆粒球がふえると活性酸素が大量に作られ、その結果、大腸の粘膜がこわされてしまうのです。
  桃黄湯の主成分は、赤石脂と呼ばれる珪酸アルミニウムなどを多く含む鉱物です。黄土湯は、珪酸、酸化カルシウムなどを多く含む黄土が主成分です。
  この二つの生薬(漢方薬の材料)に多く含まれる珪酸などの鉱物には、活性酸素の発生をおさえる働きがあります。そのため、潰瘍性大腸炎の症状が消えるものと考えています。
clover網膜色素変性症には柴胡桂枝湯などが効く
  二番目は、 網膜色素変性症です。この病気は、わが国では難病に指定されています。網膜色素変性症は、カメラのフィルムに当たる目の網膜が冒されて徐々に視力が低下し、視野が狭くなる病気です。この病気は網膜に色素がにじみ出て変性するタイプと色素はにじみ出ず(無色素性)に、血管だけが細くなる非定型的網膜色素変性症の二タイプがあります。
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  原因はまだよくわからず、治療法も確立されていません。この病気の約五○%は、遺伝素因が関係しているといわれます。
  網膜色素変性症は、かつては失明する病気と考えられていました。しかし、最近はそれほど失明率が高くないことがわかっています。進行が緩やかで、日常生活に不自由のない目の働きをずっと維持できている患者さんも多数います。
  網膜色素変性症の患者さんに腹診(腹部を押して行う漢方の診察法)を行うと、特徴的な腹部症状があります。一つはお血の症状です。お血とは、血液がうっ滞した状態を意味し、へその周囲や下腹部に、しこりのような抵抗感が感じられます。主に桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が処方されます。
  もう一つは胸脇苦満といわれるもので、みずおちからわき腹にかけて肋骨の下に、抵抗と圧痛(押すと感じる痛み)を感じる腹部症状です。
  この場合、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などの漢方薬が処方されます。
  実際、これらの漢方薬で、網膜色素変性症の患者さんの症状の進行が防止される例が非常に多いのです。何百人かの患者さんのうち、残念ながら二、三人は失明しました。しかし、この人たちは、ずいぶんひどくなってから来院されたかたです。
  漢方薬の服用で、全体として五○〜六○%の人は進行が止まり、初診時の状態が維持されます。約五%の人は、むしろ状態がよくなり、わずかながら視野も視力も改善されています。
  残りの約四○%の人は徐々に進行しているように思えますが、寿命を全うするまでは不便を感じずに生活できるものと思われます。
cloverガンの術後には十全大補湯がお勧め
  最後に、ガン術後の全身状態の改善と再発防止に有効な漢方薬をご紹介しましょう。
  私のクリニックには、術後のガン患者さんが多く訪れます。そうした患者さんに対しては、生体の崩れたバランスを漢方薬で調和させることを目標とした治療を行います。
  ガンの術後には、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が適しています。それに霊芝などを併用することで、優れた効果が見られています。
  CA125、CA19-9という腫瘍マーカーの数値がそれぞれ一一一から一四、六四から七にまで下がったケースもありました。この患者さんは、再発もありません。
  現代医学では治しにくい病気になったら、漢方薬を試してみることをお勧めします。

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