漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 網膜色素変性症 】

以下は、「安心」2000年7月号の永久保存別冊付録(視力回復大事典)に掲載された記事です。


網膜色素変性症を食い止め衰えた視力も回復させる漢方薬治療
  網膜色素変性症は、遺伝子の異常などにより、網膜(眼球の内幕をおおう膜)の裏にあるはずの色素が網膜の表面に入り込み、夜盲(暗いところで物が見えにくくなる)、視野狭窄(見える範囲が狭くなる)、視力の低下などを引き起こす病気です。
 網膜色素変性症は進行性の病気で、早い人では小学校入学前から症状が現れ、50〜60歳までの間に、かなり高い確率で失明に至ります。網膜は、画像を映し出すスクリーンのような役目をしているので、ここが色素に侵されると、物が見えなくなってしまうのです。
 同じように目の一部が変質し、物が見えなくなる病気に白内障があります。レンズの役目を果たす水晶体が変質して、白くにごってしまうのが白内障です。しかし、白内障では、変質した水晶体を手術で眼内レンズと交換すれば、再び物が見えるようになるのに対し、網膜色素変性症では、いたんだ網膜を交換する方法は開発されていません。それどころか、変性の進行を止める方法すら、確率されていないのです。
 そのため、みすみす失明の悲劇を味わう場合も多いようです。いまのところ現代医学には、網膜色素変性症の決定的な治療法はないといってもいいでしょう。
 しかし、この病気を東洋医学的に見ると、ほとんどの患者に共通する二つの特徴があります。一つは、胸脇苦満と呼ばれる季肋部(みず落ちの両わき)の抵抗感です。これは、網膜色素変性症に限らず、目の病気にありがちな特徴です。もう一つの特徴は、お血(おけつ)と呼ばれる血液循環の滞りです。
 そこで、東洋医学では、網膜色素変性症の人には、胸脇苦満を改善する
柴胡劑 (さいこざい・ミシマサイコの根を処方した漢方薬)と、お血を改善する駆お血剤 (血液の滞りを解消する漢方薬)の両方を処方します。
 すると、現代西洋医学では止める手立てがないとされている網膜色素変性症の進行が、みごとに食い止められるのです。なかには視力を取り戻す人さえいるのですから、これは現代医学の観点から見れば、奇跡ともいうべきことでしょう。
 ちなみに、東洋医学的な立場から目の病気の治療に精力的に取り組んでこられた、私の恩師である故・藤平健先生は、1000人以上の網膜色素変性症の患者を治療なさいましたが、診断時に病気が進行していた一人を除き、失明した人はいないという好成績を残しています

 治療に用いる漢方薬は、
柴胡劑では体力のある順に、大柴胡湯(だいさいことう)四逆散(しぎゃくさん)小柴胡湯(しょうさいことう) が適応になります。体力のない人には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を用います。
 
駆お血剤では桃核承気湯(とうかくじょうきとう)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が適応です。また、当クリニックではその名もズバリ、駆お血丸(くおけつがん)という、桂枝茯苓丸桃核承気湯を合わせたような漢方薬も使っています。
 では、実際に治療成績をあげている例を紹介しましょう。
 19歳の男性Tさんは、4歳のときに大病院で網膜色素変性症と診断されました。この病気の発症には遺伝的な要素も関係していますから、身内に網膜色素変性症
の人がいる場合の方が、早期発見できるケースが多いようです。
  Tさんの場合、身内にこの病気の人はいませんでしたが、暗いところで見えにくそうにしていたため、両親が眼科へ連れて行き、病名がわかりました。しかし、網膜細胞の代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)のおとろえを防ぐために、ビタミンB12などを服用する程度の治療しか受けられず、だんだん視野がせまくなって、視力が落ちてきました。
 当クリニックで
大柴胡湯駆お血丸を飲み始めたのは、Tさんの視力が両目とも0.5まで下がった12歳のときです。以来、視力の低下は止まり、19歳になった現在も、両目とも0.5を保っています。体調のよいときは、0.6に上がることもあります。
 視野狭窄も改善の傾向を見せ、夜少し物が見えにくい以外は日常生活に支障はなく、高校や大学の入試のときも、目のことで困ったことはなかったそうです。現在も体調の変化に合わせて処方を変えながら、漢方薬の服用を続けています。
 網膜色素変性症では、状態を完全に安定させるために、最低でも6年間は漢方薬を飲み続けることをおすすめします。また、なるべく早く漢方薬を飲み始めるほうが、治療成績がよいようです。子供が暗いところで物が見えにくいようなそぶりを見せたら、眼科できちんと診断してもらいましょう。
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