鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです。

パニック障害と診断されたがなにかよい漢方薬を教えて
 私は33歳になる女性です。6年前に糖尿病と甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、動悸やふるえなどが現れる病気)と診断され、何度か入院しました。現在はだいぶよくなりましたが、薬はまだ飲んでいます。
 糖尿病のほうは全くよくありません。食事制限を守れないためか、太ってしまいました。これでは血糖値(血液中の糖分量を示す数値)が安定するわけがないと思って食事療法と運動療法を始めても、いつも三日坊主です。月に1度の診察のたびに、担当医に「まずは体重を減らすこと。もう何もいうことはない」とめんどうくさそうにいわれ、私の話はほとんど聞いてもらえません。
私も病院に行くのがだんだん嫌になり、通院の何日も前から心臓がドキドキしていました。私がいちばん悪いので絶対に頑張ろうと思ったら、体重を少しだけへらすことができました。よし続けるぞと思っていたら、突然胸が苦しくなって、救急車で病院に運ばれ、その後も何度か同様に運ばれましたが、どこもなんともないとの診断でした。
やがて食欲がなくなり、胃が痛み、吐きけ、めまいや立ちくらみが出てきて、体重が1ヶ月で11キロへりました。担当医に相談すると、「どこもなんともないから精神的なものなんじゃない?」といわれました。その後も胸が苦しく、歩くのもやっとになり、「診療センターに行ってみて」といわれたのです。
すぐに診察を受けたところ、パニック障害と診断され、現在治療を受けています。ですが、あまりのつらさに毎日どうしてよいかわかりません。なにかよい漢方薬はないでしょうか。なお、私の身長は155センチ、体重は66キロです。お願いします。 (33歳/女性/匿名希望)


漢方の古典にも症状の記述がある
 パニック障害は、現代社会の不安や緊張を反映した現代病の1つで、次のような3つの特徴があります。
第1は、突然に全く予測しないようなパニック発作を起こし、精神状態が大混乱に陥ること
です。第2はそうした発作が起こるのではないかという不安、心配を常に持っていることです。第3は、現代医学的な検査をしても、発作の原因となる器質(器官の構造)的、身体的な変化は認められないことです。
あなたは、第1と第2の特徴は備えています。しかし、糖尿病と甲状腺機能亢進症が以前からあるので、第3の特徴からはややはずれています。とはいえ、あなたはパニック障害と診断されているので、そのとおりと考えましょう。
漢方の古典をひもとくと、すでに現代のパニック障害と一致する症状の記述があり、それに対する治療法も準備されているのです。
漢方の古典では、パニック障害に当たる症状を「五臓(人体の主な臓器)の気(き・一種の生命エネルギー)が傷れる」「傷気(精神錯乱)」などと表現し、その治療として、気、血(けつ・血液)、水(すい・水分)の流れをよくしていく方法を考察しています。
あなたは、身長155センチで、体重は66キロとのことですから、肥満といえます。このように、肥満、糖尿病、甲状腺機能亢進症、精神錯乱ということから考えられる処方の第1は、
柴胡剤(さいこざい) 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)の合方(薬を合わせること)です。
柴胡剤とは、柴胡(山野に自生する多年草セリ科ミシマサイコの根)が含まれた処方のことで、古くから解熱剤、抗炎症剤として用いられてきました。その柴胡剤の選び方ですが、大柴胡湯(だいさいことう)は、肥満して上腹部が突っ張り、季肋部(肋骨の下端)に圧痛(押すと感じる痛み)のある胸脇苦満を呈している人に使われます。大柴胡湯に似ているのですが、へその上方に自分の手の指を当ててみて、ドクンドクンと動悸を打っていたら柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を選んでください。柴胡加竜骨牡蛎湯は、ヒステリックな精神不安の伴う人に使われます。
桃核承気湯は、血液の滞りを改善する駆お血剤(くおけつざい)で、体力が充実した人(実証)に用います。便通を整え、腹にたまった毒素を排出し、めまい、不安、不眠を改善します。第1選択は、へその上方に動悸があるかないかで、大柴胡湯または柴胡加竜骨牡蛎湯と、桃核承気湯とします。
第2選択として考えられるのは、
女神散(にょしんさん)という処方です。これは、体力が充実し、ノイローゼでパニックに陥りやすく、めまい、不安、のぼせ、ほてり、頭痛、頭重などのある人に用いられます。
実際に腹部にふれる腹診をして、極度の便秘で便がたまっていることが確認できれば、
大承気湯(だいじょうきとう)も考えられます。これは、体力が充実し、便秘しておなかが張り、不安、不眠、興奮などが伴う人に使われます。
これまでは体力が充実しているという前提でしたが、体力が虚弱なタイプの人(虚証)なら、
加味逍遥散(かみしょうようさん)という処方も考えられます。虚弱、疲れやすい、イライラ、便秘、冷え、神経症などに用いられます。
おそらく、第1選択か第2選択の処方を1ヶ月ほど続ければ、ある程度の症状の改善がもたらされるはずです。どちらも実証向けの薬ですから、あまり長期に飲み続けることは勧められず、症状に応じて処方を適宜変更していくべきでしょう。


漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
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