鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」2000年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです

ひどい疲労感をなくす漢方薬を教えて
私は52歳になる主婦です。2年ほど前から、いつも激しい疲労感に悩まされるようになりました。家事はなんとかこなしているものの、やる気は全く起こらず、ひどく時間がかかってしまうのです。身長は151センチで、体重は49キロです。
胃のもたれや胃痛があって、近くの病院で検査を受けましたが、胃下垂といわれたほかは、特に異常はありませんでした。しょっちゅう便秘をしたり下痢をしたりしていますが、食欲がないということは、ほとんどありません。
手や足の先は、夏でも冷たさを感じます。カゼをひきやすく、一度ひいてしまうと、なかなか治りません。セキ、タン、鼻水が長引き、さらに体がだるくなって眠くてしかたがない、というような状態が続きます。
現在は買い物に出るくらいで、ほとんど外出しません。家にいても、家事をしてるとき以外は、ぼーっとしたり横になったりしています。なんとか疲労感をなくしたいのですが、よい漢方薬はあるでしょうか。 (52歳/女性/匿名希望)


気力がわいて全身状態が改善
あなたの訴えを現代医学的にとらえると、慢性疲労症候群と考えることができるかもしれません。慢性疲労症候群は、あきらかな原因がないのに、(1)激しい疲れ、(2)軽い微熱、(3)のどの痛み、(4)リンパ節(細菌の侵入などを防ぐリンパ液の通り道であるリンパ管にある、
つぶ状の塊)の腫れ、(5)筋力低下、(6)筋肉の痛み、(7)頭痛、(8)関節痛、(9)まぶしい、ぼんやりする、思考力の低下などの精神神経症状、といった九つの症状の有無によって診断基準があります。
あなたは非常に疲労感が強いうえに、カゼをひきやすくセキやタンが出る(微熱やのどの痛み)、体がだるく家事も時間がかかる(筋力低下)、ぼんやりする(精神神経症状)など、完全とはいえませんが、診断基準のうちの五つにあてはまる症状があるので、慢性疲労症候群と考えて差し支えないでしょう。
あなたは病院で検査を受けたところ、胃下垂以外には異常はなかったそうです。この胃下垂も、体が重い、疲労倦怠感 、食後の眠け、冷え性などの症状をもたらすことがあります。
ただし、ひどい胃下垂は食欲が低下して、あまり食事を取ることができず、やせてくるのが普通です。しかし、あなたは食欲もあり、身長151センチ、体重49キロですから、典型的なひどい胃下垂ではなさそうです。
また、あなたは下痢と便秘をくり返すともいっていますが、これは過敏性腸症候群の特徴的な症状でもあります。過敏性腸症候群になると、くり返す下痢と便秘とともに、気力が衰える、疲れやすい、頭が重い、ふらふらする、日中に眠くてしょうがないなどの症状が現れることもあるのです。
このように、慢性疲労症候群、胃下垂、過敏性腸症候群などが絡み合って、あなたにひどい疲労感、気力低下、眠け、だるさなどをもたらしていると考えられます。もう一つ、更年期障害の一症状の可能性も考慮しなければなりませんが、相談のお便りには、生理や更年期障害に関する記述が全くみられないので、その可能性はないものとして考えることにします。
漢方薬には、こうした疲労倦怠感や気力低下を改善する処方がいくつも準備されていますから、試してみる価値は大いにあります。漢方では、なんともとらえようのない慢性の疲労を、気力がなくなった気虚の状態ととらえます。それに伴って、体力が極度に落ち込んだものは、血虚ととらえるのです。
そこで、こうした 気虚や血虚を改善するための処方が用いられます。その代表的なものは
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で、気力低下を起こした病気には、とてもよく効きます。字のとおり、中(胃腸)を補って気力を増す薬です。
気虚の他に、皮膚がかさついたり体重が減少したりする血虚もあると考えられるときは、
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が効果を発揮します。胃下垂に伴って疲労感、冷え、無気力が現れているときは、四君子湯(しくんしとう)が使われます。みずおちのもたれが伴うときには、人参湯(にんじんとう)が使われることもあります。
こうした処方の中から、あなたに適した第一選択薬と考えられるのは、
補中益気湯 です。あなたは、気虚と血虚でいえば、気虚ははっきりとしていますが、血虚はそれほどではなさそうです。また、セキやタン、鼻水などのカゼのような症状を頻繁に起こしているそうです。それらの症状は、補中益気湯 に含まれる人参、黄ぎ(マメ科)、柴胡(セリ科)をはじめとする10種類の生薬(漢方の原材料)の配合によって、みごとに解消される可能性があります。
補中益気湯を1ヵ月も飲み続ければ、気力がわいて全身状態もよくなり、仕事をやろうという気分になれるはずです。胃下垂や冷え、あるいはみずおちのもたれなどの症状が強いときは、第二、第三選択として四君子湯人参湯も考えられます。


漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
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