鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」2000年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事を要約したものです

頑固な肩こりに悩んでいる私に合う漢方薬を知りたい
私は現在64歳ですが、20代のころから肩がこっていました。机で事務作業をしていたためかと思っていたのですが、仕事を辞めてからも、いっこうによくなりませんでした。30歳を過ぎてからは、ひと月に1回は、専門家からマッサージを受け、市販の肩こり薬も手放せないような
状態だったのです。
それでもなんとかだましだましやってきたものの、50代半ばを過ぎてからは、肩こりがいっそうひどくなり、首から背中にかけて、まるで、板が入っているようにかたく感じられるようになりました。また、マッサージには週に1度は通うようになりました。それでもひどくなると、吐き気を感じることもあるほどです。
身長は157 センチで、体重は51キロです。手足は 夏でも冷たく感じますが、顔は冬場でもほてることがあります。血圧は高いといわれたことはないです。特に大きな病気をしたこともありません。最近、腰痛を感じることもあります。どうか私に合う漢方を教えてください。(64歳/女性/匿名希望)


葛根湯(かっこんとう)と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を組み合わせる
現代医学では、肩こりに独立した診断名は与えられておらず、頚肩腕症候群の中の一つの症状ととらえられています。原因となる病気がある場合を除き、肩こりはしばらくほうっておけば治ることも多く、医師も肩こりをあまり重視しない傾向が見られます。
治療としては、ホットパックや赤外線照射などの温熱療法や牽引療法、マッサージや灸などの対処療法が行われるのです。
ほとんどの場合、生命には関係なく、しかし本人の苦痛は大きい、そんな病気や症状には、漢方治療が活躍するケースが少なくありません。
肩こりには、精神的なストレスが関連していることがしばしばあります。つまり、漢方でいう気(き・一種の生命エネルギー)が密接にかかわってくるのです。また、筋肉がこると、血液循環が悪くなり、血(けつ・血液)そして体液の水(すい・水分)の循環がうっ滞する ようになります。
したがって、漢方では、 肩こりは気、血、水の3つの不調によってもたらされると考えます。
そこで、 気、血、水のそれぞれのうっ滞に対して、
香蘇散(こうそさん)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などの順気剤(気を巡らす薬)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など駆お血剤(くおけつざい・血の巡りをよくする薬)、半夏白じゅつ天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)二じゅつ湯(にじゅつとう) などの利水剤(水を巡らす薬)などを組み合わせて用います。
もう一つ、肩こりを治療するときには、血の流れと関連して、
柴胡剤(さいこざい)が用いられることもあります。柴胡剤は肝臓に流れ込む血液や、肝臓の中での血液の流れをよくする薬剤です。
このような観点とともに、患者さんの心身の状態をすべてにわたって観察し、証(しょう・漢方的な特徴)にしたがって処方を選んでいかなければなりません。
この患者さんの身長と体重から考えると、中肉中背というところで、やせてはいません。20歳代から肩こりに悩まされてきたというものの、60歳すぎまで仕事を続けていますから、大きな病気もしておらず、それほど虚弱でもないと想像されます。
とはいえ、手足は夏でも冷たいので、冷え症です。しかし、顔は冬でもほてるので、いわゆる冷えのぼせの体質なのでしょう。最近は腰も痛く、肩こりがひどいときは吐き気もあるといいます。しかし、血圧は高くありません。
特徴的な表現として、肩に板が入っているようにかたいと訴えています。このような表現を漢方では柔痙(じゅうけい)と読んで重視しています。ちなみに、てんかんやパーキンソン、狂犬病などで背中が反り返るほどこわばるものは剛痙(ごうけい)と読んで区別しています。
これらの状態から総合的に考えて、次の漢方薬を試してみてください。
第一は、
葛根湯(かっこんとう) 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の組み合わせです。葛根湯は代表的な肩こりの薬で、首や肩のこわばりを取り除きます。半夏厚朴湯は気を巡らす薬で、精神的なストレスを緩和します。
第二は、
柴胡剤加味逍遥散(かみしょうようさん)です。第一の葛根湯半夏厚朴湯が奏功するケースよりもいくらか体が弱い場合には、加味逍遥散が効くことがあります。手足が冷えて顔がのぼせる冷えのぼせを改善し体調を整えます。腹診をして、へその周りに圧痛(押すと感じる痛み)があるときは駆お血剤桂枝茯苓丸を併用します。
第三に、柔痙に着目して
大陥胸丸(だいかんきょうがん)です。これは保険のきかない処方なので、漢方薬の生薬(漢方薬の原材料)を売っているところで生薬を買い求めて作る必要がありますが、柔痙の症状をみごとに改善します。丸剤として作られていることもあります。
それぞれの漢方薬を1ヵ月ずつ試してみてください。調子がいいなら、さらに服用を続けます。頑固な肩こりもやがて改善して楽になるでしょう。


漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
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