鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」2000年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事を要約したものです

原因不明の背中の痛みに効く漢方薬を教えて
 私は69歳になる女性です。以前、首の1番下にあるグリグリした骨を、押してみると痛かったので、病院に行ったことがありました。病院で診てもらい薬をもらって飲んだところ、じきによくなったのです。
 ところが、4、5年前から、首の下のグリグリした骨を押してみると再び痛みを感じ、今度は徐々に背中全体が痛み始めたのです。去年から今年にかけての冬は、特に寒さをひどく感じるようになりました。
朝目覚めてからも2〜30分は、背中の痛みのため起き上がれないような状態です。背中の痛みが治まってからようやく起き上がると、今度は右足のかかとが痛みます。以前は歩き出すとじきに治ったのですが、このごろは、いつまでも痛みがとれません。
今年の2月の下旬ごろ、急に左の肺に3ヵ所ほど、鉛筆の先で押したような痛みを一瞬感じたので病院で検査を受けましたが、異常なしとのことでした。
最近は背中の痛みのため元気もなく、顔色もあまりよくありません。身長は150センチ、体重は55キロです。背中の痛みに効くような漢方薬はあるのでしょうか。 (69歳/女性/匿名希望)


桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)と芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんそうぶしとう)
 医療機関で訴えられるいろいろな不定愁訴でいちばん多いのは「痛み」です。その中で、頭痛や足の痛みなどと並んで非常に多い訴えの1つが背中の痛みなのです。そして、原因不明の背部痛が非常に多いというのが大きな特徴です。
 背中の痛みは、大まかに、(1)筋肉の痛み、(2)神経の痛み、(3)関連痛の3種類に分類されます。
筋肉の痛みとは、筋肉がかたくなったり疲れたりして伸び縮みしにくくなって痛むもので、多くは筋肉の血流の障害によるものです。
神経の痛みは、加齢による退行性変化がほとんどです。
関連痛とは、例えば虫垂炎によって腹部の表面が痛んだり、膀胱結石によって背中が痛んだりすることで、内臓の病気に関連して起こる痛みです。
この関連痛の原因になる病気は、十二指腸潰瘍や胆石、膵炎などをはじめとして、実は数限りなく存在します。しかし、病院で検査を受ければ、これらの病気は発見することができます。
あなたは病院でいろいろと調べてもらって異常なしと言われているので、内臓の病気が原因ではなさそうです。となると、筋肉の循環障害か神経の病気、つまり原因不明の背部痛ということです。
漢方では、気(き・一種の生命エネルギー)、血(けつ・血液)、水(すい・水分)の3つの要素の中で病気をとらえていきます。あなたの場合、血と水の異常が推測できます。背中の血液とともに、水の流れが悪くなったため、筋肉の硬直や神経の障害が起こって、背部痛が現れていると解釈されるのです。
そこで漢方的には3つの治療法が準備されています。1つ目は、血液の流れをよくして循環を改善する
駆お血剤(くおけつざい)、そして水の流れをよくする利水剤です。2つ目は麻黄(まおう)附子(ぶし)などの痛みを取る薬で、一般に、前者は体力の比較的強い人に、後者は体力の弱い冷え性の人に用いられます。3つ目は、体を温めて痛みを取る温熱薬です。
あなたは身長は150センチで体重は55キロですから、やや小太りというところです。最近元気がなくなったと訴えていますが、比較的体力があり、虚弱というわけではないと考えます。
こうしたことから、あなたに合う第一選択薬として、
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんそうぶしとう)を勧めます。桂枝茯苓丸駆お血剤として背中の血液循環をよくし、芍薬甘草附子湯は筋肉のけいれんを取り除いて温め、痛みを解消します。ただし、芍薬甘草附子湯は保険がききません。そこで、保険のきく芍薬甘草に生薬(漢方薬の原材料)の附子を1.0グラムか2.0グラムを加えれば、芍薬甘草附子湯を服用するのと同じ効果が期待できます。
第二選択にお勧めするのは、
桂枝加じゅつ附湯(けいしかじゅつぶとう)です。これはもともと神経痛を解消する処方です。場合によっては、八味丸(はちみがん)を併用すると、より効果的です。
それから、3つ目として、冷えを取って痛みを解消するのが
当帰四逆加呉しゅゆ生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。これは冷え性を解消する処方です。あなたは、足が冷たい、右足のかかとが痛いと訴えているので、右足の血流が悪くなっているのではないかと考えられます。最近、寒さを感じるようになってきたそうですから、温熱薬としての働きを期待します。
もし、尿が出にくい、むくみが起こるような場合は、
利水剤防己黄ぎ湯(ぼういおうぎとう)を服用すれば、水の流れがよくなって痛みが解消することもあります。
すでに背中の痛みが始まってから慢性的に長い時間が経過していますから、1つの治療薬を4週間ほど試してみて、効果がなかったら次の治療薬を試してみてください。効果を実感したら、3〜4ヵ月は続けて飲む必要があるでしょう。
病院の検査で異常がないということですが、前述のとおり、背中の痛みにはしばしば内臓の病気が隠されていることがあるので、半年か1年に1度は、検査を受けるようお勧めします。


漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
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