鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」2000年2月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

副鼻腔気管支炎のひどいセキとタンがいっこうに治らない
  私は68歳の女性です。1年以上前から、ひどいセキとタンが出るようになりました。始めはカゼをひいたのかと思っていましたが、いっこうによくならないので、病院に行ったところ、副鼻腔気管支炎(蓄膿症にセキやタンを伴う病気)といわれました。
  そう診断されてから、もう1年近くになりますが、ほぼ1日おきに通院して、鼻の洗浄を受けています。トローチなどももらってはいますが、ほとんど効果はありません。
  セキとタンがひどいので、のどが炎症を起こしているようです。タンは、ほぼ透明で、においもありません。食べたり飲んだりした後に、特にセキやタンがひどく出ます。
  私の身長は149センチで、体重は44キロです。こんな状態が続くようでは、安心して外出もできません。どうか私に合う漢方薬を教えてください。    (68歳/女性/匿名希望)


苓甘姜味辛夏仁湯から使ってみる
  鼻は外鼻(鼻の出っ張り)、鼻腔(鼻の穴)、副鼻腔(鼻の穴の奥の空所)の3つで構成されています。副鼻腔は、顔の骨の中に開いている空洞で、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の4つがあり、内部は鼻腔の粘膜と同じような粘膜で覆われています。
  この副鼻腔の粘膜に、化膿性の炎症が起こったものが副鼻腔炎です。そのきっかけは細菌感染などですが、副鼻腔は迷路のように奥深くまで入り組んだところなので、いったん炎症が起こると、なかなか治りにくいものです。そのため、慢性化したり、一度は治ったかのように見えたりしても、なにかを契機に再発したりすることが少なくないのです。
  慢性の副鼻腔炎が起こると、同時に、気管支にも炎症が起こり、空気が通りにくくなっていることがあるため、今日では副鼻腔気管支炎として捕らえられるようになってきました。
  慢性の副鼻腔炎の治療法として、副鼻腔の粘膜をはがす手術があります。また、抗生物質(カビなどから作られる薬)や、副鼻腔にたまったウミを溶かす点鼻薬を使ったり、鼻洗浄を行ったりする方法もありますが、症状は、なかなか治りにくいのが実状です。
  慢性副鼻腔炎の最初のきっかけは、カゼなどの細菌感染のケースが多いのですが、そのまま治ってしまう人もあれば、あなたのように慢性化して、セキやタンの多い気管支炎を起こしてしまう人もあります。その違いは、それぞれの人の体質やアレルギーなどが関連していると考えられています。
  そこで漢方では、そうした副鼻腔炎を慢性化させていると思われる、体質の改善を図りながら治療を進めます。漢方治療は、体が丈夫か、それとも虚弱かによって、選ぶ薬がかなり違ってきます。
  例えば、セキの薬についても、体力が充実した実証タイプなら、エフェドリンが主成分である麻黄(マオウ科の多年草マオウの地上茎)を含んだ麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)などの処方を用います。
  しかし、体の衰えた虚証タイプには、附子(キンポウゲ科のトリカブトの塊根)などの、体を温める作用の強い生薬(漢方の原材料)を含んだ、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などの処方を用います。
  副鼻腔気管支炎の薬はたくさんあるのですが、ひどいセキと水っぽいタンということで、薬を選んでみます。
  あなたの体力は、中等度からやや虚弱という印象を受けますが、あまり詳しい記述がないので、よくわかりません。こんな場合、虚証の人に実証向けの処方を使うと副作用が起こることがあるので、虚証向けの薬から試すのが大原則です。
  そこで、虚証向けとして選択するのが、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)です。この処方は、茯苓甘草乾姜五味子細辛半夏杏仁の7種類の生薬で構成されていますが、そのうちの六生薬は利水剤(尿の出をよくする薬)、ニ生薬は温薬(体を温める薬)、三生薬は鎮咳剤(セキを鎮める薬)で、虚証タイプの体を温め、水毒は(水分が順調に流れない状態)と冷えを取り去って、副鼻腔気管支炎を改善します。
  次に、実証向けに選択するのが、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。これは、苓甘姜味辛夏仁湯茯苓麻黄に、杏仁桂枝に変更し、芍薬を加えて実証向けにした処方です。三生薬は鎮咳剤、四生薬は水毒を去って副鼻腔気管支炎を改善します。
  まず、苓甘姜味辛夏仁湯から使ってみてください。1〜3ヵ月ほど飲んで効果が実感できるかどうか、確かめてみましょう。あまり効果がない場合は、小青竜湯を用いてみます。この場合、小柴胡湯(しょうさいことう)を併せて服用するほうが効果的です。
  体力が充実していて、1年間もセキに悩まされているとしたら、胸脇苦満(肋骨の下端の部分が重苦しく、押すと痛みを感じる腹部症状)という腹部状態が出ているかもしれません。これが現れているときは、小柴胡湯が体に合っていて、長期の炎症症状を解消し、体質を改善することができます。
  小柴胡湯小青竜湯を併せるときは、それぞれを3分の2ずつ、併せて一度に服用してください。こちらも、1〜3ヵ月服用している間に、効果が実感できるはずです。
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