鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」2000年3月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

● 赤ら顔がひどく人前に出るのも恥ずかしい
  私は愛知県に住む40歳の主婦です。1年前から、赤ら顔でひどく悩んでいます。3ヵ月ほど前に、さらに赤みが強くなってしまったので、皮膚科の医院に行ったところ、酒さ鼻と診断されてしまいました。治療を受けていますが、赤みが取れるどころか、鼻や両ほおといった目
立つところが、特に赤くなってきているようなのです。人前に出るのも恥ずかしく、なんとか化粧で隠そうとしていますが、それにも限界があります。現代医学ではなかなか治らない病気と聞きました。なんとか漢方で治らないものでしょうか。
私の身長は150センチ、体重は42キロです。血圧や生理は正常ですが、子供のころから下痢をしやすい体質でした。冬には手足の冷えを感じ、特に、足は夏でも冷たいほうです。どうかよろしくお願いします。 (40歳/女性/匿名希望)


加味逍遥散で症状が改善する
  酒さとは、中年以後の女性に多く発生する慢性的な病気です。顔面の鼻、ほお、口の周りなどの毛細血管が新生・拡張して、ほぼ左右対称形に赤くなり、かゆみ、熱感、ウミなどを伴います。特に鼻に現れたものは酒さ鼻(赤鼻)と呼ばれています。
  酒さは、進行の度合いによって、第一度から第三度に分類されます。第一度は、幹部の皮膚の毛細血管が新生・拡張してなんとなく赤く、軽いかゆみが伴う段階です。第二度は、さらに毛細血管の拡張が進み、浮腫(むくみ)、丘疹(膨らみを持った発疹)などによって幹部がでこぼこになり、膿疱(ウミの膨らみ)を伴うこともあります。第三度は、患部の丘疹が集合して、さらに大きく腫瘤状となり、強いかゆみだけでなく灼熱感も現れるようになります。
酒さの原因は、環境、職業、精神的な悩み、飲酒、女性の生理的な要因などと考えられています。現代医学での治療は、ステロイド(炎症などをおさえる薬)外用薬の副作用にもよると考えられ、その離脱、非ステロイド軟こうの塗布、テトラサイクリンの内服などが行われますが、率直にいえば、お手上げに近いのが実状です。
一方、漢方は、酒さや酒さ鼻の治療に卓効を現す場合が少なくないので、試してみる価値は大いにあります。漢方治療の前にいま一度、ステロイド剤を使用していないか、確認してください。もし使っていれば、ただちに中止する必要があります。
この病気になり、ステロイドの軟こうを塗布すると、最初は一時的に軽快することがありますが、後から悪化してしまうことが多いのです。あなたは、いったん治療を受けたものの、赤みがひどくなったように思えると訴えています。
このことから、ステロイド軟こうの処方を受けた可能性もあるのではないかと心配したしだいです。現在では、酒さにステロイドは厳禁であることが常識になっていますが、万一、そうした治療が行われているとしたら、すぐに中止してください。
  そのうえで、漢方治療となります。漢方では、酒さはお血が関係した病気と考えています。お血とは血液が滞ることで、患部の毛細血管が拡張して赤くなったところでは、血液が滞っていると解釈するわけです。こうしたお血を改善するために、駆お血剤が用いられます。
  駆お血剤もほかの漢方薬と同様に、体力に応じて使い分けられ、例えば実証(体力が充実したタイプ)には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、実証から中間証(体力が中等度のタイプ)には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、中間証で多彩な愁訴がある人には加味逍遥散(かみしょうようさん)、それよりも虚証(体力が虚弱なタイプ)で冷え症の人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) という具合に用いられます。
駆お血剤とともに、ニキビの治療によく効く処方を併用すると、いっそう効果的な場合もあります。清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)は、化膿傾向にある酒さによく用いられます。保険は効きませんが、葛根紅花湯(かっこんこうかとう)あるいは葛根黄連黄ごん湯(かっこんおうれんおうごんとう)が奏効することもあります。
軽い人には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)も効果を現します。男女を問わず、肥満した人には防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)もよく効きます。
あなたは、身長150センチ、体重42キロですから、小柄でやせ型と考えられ、年齢的には中年期の初期で血圧や生理は正常ということです。子供のころから下痢しやすく、冬に手足の冷えを感じ、夏でも足が冷たいということですから、虚証であると考えられます。あなたの場合は、酒さの進み具合は、第二度から第三度に向かいつつあるといったところでしょう。
これらのことから、第一選択は中間証向けの駆お血剤である加味逍遥散です。腹部を手で押して診察する腹診を行わないとさらに詳しいことはわかりません。ですが、もっと冷えの強い虚証なら当帰芍薬散、逆に実証の度合いが強いなら桂枝茯苓丸が合うかもしれません。桃核承気湯が適しているほど実証ではなさそうです。
併用する処方のほうは、化膿傾向がないので清上防風湯は必要ありませんが、症状が進んでウミが出るようになったらこれを試してください。現在までの症状なら、黄連解毒湯を併用するだけでじゅうぶんと考えられます。
加味逍遥散を単独で服用するだけでも、予想以上に症状が改善することがあります。効果が現れたのちも、3ヵ月から6ヵ月は服用を続ける必要があります。また、化粧品で皮膚を刺激するのは避けてください。
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