鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

ひどいめまいとつらい耳鳴りに悩まされている
  つらい耳鳴りとひどいめまいに悩まされています。1年ほど前のことです。人と話をしていて声が遠くに聞こえるなあと感じたことがありました。なんかおかしいなと思っていましたが、それから3日ほどして、ひどいめまいが起こったのです。
  天井がぐるぐると回っているようで歩くこともできませんでした。総合病院で診てもらったところ、メニエール病だろうといわれました。その後、すり鉢の底に吸い込まれるような感じのめまいも起こり、キーンという耳鳴りもしました。医師にかかって薬をもらい、しばらくは落ち着いていたのです。
  ところがある日、耳鳴りがして、嫌だなあと思っていたところ、天井がぐるぐる回るようなめまいが起こったのです。そこで再び病院で、脳波検査やCTスキャン(コンピュータ断層撮影)などいろんな検査をしましたが右耳の聞こえが悪く、突発性難聴だろうといわれました。
  それ以来、たびたびひどいめまいが起こっています。めまいがいつ起こるかわからないので、安心して外にも出られないほどです。また、耳鳴りも突然起こるため、とても気になります。私はどちらかといえばやせ型で、顔色があまりよくありません。血圧は正常です。この耳鳴りとめまいを治す漢方薬を教えてください。 (48歳/女性/匿名希望)


苓桂朮甘湯と沢瀉湯を勧める

  メニエール病の診断には、次のような基準があります。回転性のめまい(周囲がぐるぐると激しく回るめまい)、ときに浮動性のめまい(雲の上を歩いているように体がふらふらするめまい)がくり返して起こること、耳鳴りや難聴など内耳性(内耳とは耳の最奥部)の症状

を随伴することなどです。
  この人は、天井がぐるぐる回っているようなめまいと、すり鉢の底に吸い込まれそうなめまいがたびたび起こっています。キーンという耳鳴りもしているそうです。病院で検査を受けても、ほかに病気は見つかっていないようです。先ほどの基準に合致しており、メニエール病ではないかと思われます。
  お手紙によると、病院では突発性難聴と診断されたそうです。しかし、突発性難聴はめまいや難聴をそう何度もくり返しません。この人のめまいは何度も反復していますから、突発性難聴ではなく、メニエール病ではないかと考えられます。
  メニエール病は、内耳の中に内リンパ水腫のあることが、その原因の1つと考えられています。内リンパ水腫とは、リンパ液(体内を流れる透明な液体)の流れが悪いためにできる浮腫という意味です。この現代医学的な考え方は、漢方ともみごとに一致しています。漢方では、体の水の循環が悪いこと、あるいはそのために起こるさまざまな症状を水滞(水毒ともいう)と呼んでおり、めまいと耳鳴りはまさに水滞と考えられているのです。
  患者さんが水滞の体質かどうかを表す指標はいくつかありますが、その代表的なものは胃内停水または胃内振水音です。胃内停水とは、胃の中にいつも水が停滞していることです。漢方の診断法として、みずおちをこぶしで軽くたたく方法があります。こうすると、胃内停水がある人は、胃内でポチャポチャと水の音がするのが特徴です。
  また、胃内停水の人は、走ったりしたときにポチャポチャと振水音が聴こえることもあります。尿の出がよくない、足がむくむ、手足が冷える、のぼせ、血の巡りが悪いなども水滞を示す兆候です。このような水滞が主な原因のひどいめまいや耳鳴りには、水滞を改善する利水剤が用いられます。回転性の激しいめまいに第一選択的に用いられるのは、沢瀉湯(たくしゃとう)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。
  これは沢瀉(オモダカ科の多年草サジオモダカの塊茎のひげ根を除いて乾燥させたもの)と(キク科の多年草オケラの根茎のひげ根を除いたもの)の2種類の生薬(漢方薬の材料)から構成される処方です。
  漢方薬は一般に構成生薬の数が少ないほど、その効能も的確ですが、この処方もその例外ではなく、めまいに対して鋭い効果を現します。ただし、沢瀉湯は保険に採用されていないので、別製のエキス剤か生薬を煎じる必要があります。
  次の苓桂朮甘湯は、尿が出にくい、足がむくむ、めまい、立ちくらみ、動悸などに用いられる処方です。この人は、顔色があまりよくありませんと書いているので、少し貧血があるのかもしれません。その場合は、苓桂朮甘湯四物湯(しもつとう)という処方を合わせたものが効果を発揮することがあります。四物湯は体が衰えた女性の産婦人科系の症状にも用いられる処方です。
  例えば、ひどいめまいの発作が夜起こることが多い人は、朝は苓桂朮甘湯四物湯を飲み、夜は沢瀉湯を飲むようにするとよく効くことがあります。めまいが起こるのが朝なら、朝に沢瀉湯、夜に苓桂朮甘湯四物湯を飲みます。また、胃腸が弱く、手足が冷え、めまい、頭痛、むかつきなどに悩まされる人には、真武湯(しんぶとう) 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が効果を現す場合もあります。
  これらの処方を、4週間ほど試してみてください。体に合う場合は、胃内停水、尿の出、むくみ、手足の冷え、腹部の動悸、生理不順などの症状が改善するとともに、めまいも起こりにくくなるはずです。



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