鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

吐き気を感じるほどひどい生理痛をなんとか治したい
  私は、小学5年生で生理が始まってから今まで、生理のたびに、激しい下腹部の痛みと、しばしば起こる吐き気に悩まされています。小、中学時代は、給食時に食べ物のにおいをかいだだけで胸がむかついて、食事はほとんどのどを通りませんでした。
  高校時代は、バス通学で、整理のときに気分が悪くなり、吐き気を催して途中下車するようなことも何度かありました。
  会社で働き始めてからは、吐き気は学生時代ほどではなくなりましたが、疲れがたまっていたり、夏場の暑い日などに整理が重なったりすると、吐き気を感じることがあります。
  下腹部の痛みは、依然として強く、生理の始まる4、5日前から痛み始め、生理が始まってからは、2、3日その痛みが最も強くなります。ひどいときには、歩くのもつらく、うずくまってしまいたいほどです。
  生理の4、5日前から便秘か下痢になることが多く、一年じゅう、足はひどく冷えていますが、手足には汗をかくこともしばしばあります。トイレは子供のころから近いほうで、ひどく神経質でした。私の心情は、162センチ、体重は58キロです。よい漢方薬を教えてください。  (27歳/女性/匿名希望)


当帰芍薬散をまず勧める
  月経の前から最中にかけての諸症状を月経随伴症状と呼び、主に月経前緊張症と月経困難症とがあります。月経開始の10日から2日ほど前までの約1週間に起こるのぼせ、精神不安、イライラなどが月経前緊張症で、月経開始とともにこれらの症状は消失するのが一般的です。

  月経開始の前日か当日から月経の最中まで、骨盤の痛み、下腹部痛、吐き気、下痢あるいは便秘、頭痛などの症状が起こるのが月経困難症です。月経前緊張症と月経困難症は、いずれか一方だけが現れるのではなく、両方に悩まされる女性も少なくありません。
  月経開始の約2週間前の期間は黄体期と呼ばれ、女性ホルモンのプロゲステロンとエストロゲンが大量に分泌され、妊娠を準備して子宮内膜が肥厚します。月経開始とともにホルモンの分泌は急激に低下し、子宮内膜ははがれ落ち、血液とともに排出されます。これらの変化が女性生殖器や全身にさまざまな影響を及ぼすために、月経随伴症状が現れます。
  あなたは、月経困難症が主な症状と考えていいでしょう。その場合、漢方では駆お血剤と呼ばれる血液のうっ滞(とどこおり)を解消し、循環をつかさどる薬を使うのが一般的です。
  あなたはどんな駆お血剤が適しているのが、漢方的に症状の特徴を考えて見ます。かなり神経質そうで、尿の回数が多いようです。体の水はけが異常を起こした水毒が疑われます。精神的に不安定、手に汗をよくかくなど、気(一種の生命エネルギー)も異常も見られます。
  身長162センチで体重58キロと、りっぱな体格をしていますが、意外と体調は丈夫ではなく、やや水太りの虚証(体が虚弱なこと)タイプではないでしょうか。これらのことから、虚証タイプ向けで、なおかつ水毒を改善する作用も合わせ持つ駆お血剤が、あなたには最も適していると推測されます。
  まず考えられるのは、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。この処方に用いられている主薬は当帰(セリ科トウキの根を乾燥させたもの)と芍薬(キンポウゲ科シャクヤクの根を乾燥させたもの)ですが、これらはいずれも虚証向けのお血を改善する生薬です。しかも、水毒を改善する作用も持っています。
 次に考えられるのは、当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)という処方です。おなかが突っ張って痛む虚証タイプ向けの小建中湯(しょうけんちゅうとう)という処方に、当帰を加えたのが当帰建中湯です。虚弱で月経痛などに悩まされ、非常に疲れやすく、仕事をするのも苦痛でしかたないという人にはよく効きます。
  お便りから、あなたは虚証タイプと判断して、当帰芍薬散あるいは当帰建中湯を選びましたが、もう少し体力があり、虚証から中間証あたりで、動悸、不眠、冷えのぼせがあり、さまざまな不定愁訴に悩まされている場合には、加味逍遥散(かみしょうようさん)が効果を現します。
  もっと体力があり、月経のときは月経痛がつらいけれども、おなかに力もあり、へその周りにお血特有の圧痛(押すと感じる痛み)を感実など、実証タイプのお血の場合には桃仁(バラ科モモの種)、牡丹皮(ボタン科ボタンの根の皮)を主薬とする、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が奏功します。子宮内膜炎などの病気が背景にある場合も同様です。
  これらの処方のいずれかを飲み始めると、早ければ次の月経のときから効果が現れ始めるはずです。1回や2回の月経では効き目が実感できないこともありますから、3ヵ月は続けてみてください。3ヵ月飲んでみて調子がよく、体に合っていると感じられるなら、1年は続けて服用することを勧めます。
  これらの薬を飲んで、かなり調子はいいけれども、月経中の腹痛がやはりひどいという場合は、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) という薬を月経痛のひどい間だけ併用するとよいでしょう。
  kの場合の併用のしかたは、例えば同時に服用するのでかまいません。お便りに、歩くのもつらく、うずくまってしまいたいほどとありますが、そんなときすぐに、頓服的に芍薬甘草湯を服用しても効果があります。

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