鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です

手術を勧められた歯茎の腫れを漢方薬で治したい
  身長178センチ、体重85キロの39歳、男性です。見た目はがっちりした体格で、持病はありません。最大血圧100〜110ミリ、最小血圧70〜80ミリで、中性脂肪値がやや高めです。
  現在、前歯の歯茎のひどい腫れで悩んでいます。実は今から4年ほど前にも、前歯の差し
歯の付け根が腫れたことがありました。歯科医の話では、膿胞ができているということで、このときは、差し歯をわざわざ抜いて消毒し、抗生物質の薬を飲んで腫れは引きました。ですが、膿胞を切除しない限り、これから何度も体が弱るたびに、腫れるといわれてしまいました。
  切除するためには、上唇を止めている腱を切って上唇をめくり、メスを入れて切り取るのだそうです。術後1週間ほどは、鼻の下がひどく腫れるといわれました。ですが、私は手術はどうしても受けたくはなく、幸いなことに、最近まで再発することもなくきたのですが、今年の9月の半ばになって、そこが再び腫れてしまいました。
  暴飲暴食をしたわけでもありませんが、前歯の歯茎の左側が腫れています。小指の先ほどの大きさで、深紅色にぷっくり腫れて、麻酔がかかっているように、ボワーッとしています。歯ブラシでブラッシングしたり、口臭防止の薬用消毒液を使ったりしていましたが、全く改善せず、痛みさえ出てきてしまいました。手術をせずにどうにか治らないものかと思います。よい漢方薬をぜひ教えてください。  (39歳/男性/匿名希望)


歯痛に伴う初期の炎症には葛根湯を
  あなたの症状は、慢性的にくり返している歯肉炎か、歯周炎(歯槽膿漏)でしょう。歯肉炎の原因は細菌感染です。膿胞があるということですから、そこが細菌の巣になっているわけです。
  歯肉炎の予防には、日常的に葉と歯茎の掃除をきちんとすることが必要です。掃除が不十分で葉と歯茎に細菌の巣であるプラークが付着すると、炎症が起こります。炎症の症状は、発赤、腫れ、痛みです。あなたも深紅色の歯茎、腫れ、痛みを訴えているので、炎症を起こしていることがわかります。ただし、歯茎は深紅色なので、まだ炎症の初期で、化膿はそれほど進んでいないようです。
  こうした情報から漢方の処方を考えますが、基本的には、歯科医の診察と治療も受けて、漢方を併用することを勧めます。
  歯肉炎を改善する場合、2つのことが考えられます。1つは、口のなかの細菌感染をいかに防ぐか、掃除をするかということです。もう1つは、ふだんから体の防衛力を高めておくことです。つまり、ホルモン分泌を整えたり栄養のバランスを取ったりすることが必要なのです。体力をつけるという点では、漢方治療も大いに役立ちます。
  身長と体重からすると、頑健な実証(体力が充実していること)タイプでしょう。歯茎の炎症を初期と考えると、最初に考えられるのは葛根湯(かっこんとう)です。これは、歯痛に伴う初期の炎症にしばしば用いられる処方です。
  葛根湯は、体の温熱を産生する中枢(温熱中枢)を調節します。体の熱を上げたり下げたりするだけでなく、温熱中枢を調整し、生体防御機構(体内に侵入しようとする有害物質を無毒化したりする働き)にも関連していると考えられるのです。歯痛のときは、肩こり、頭痛、寒気、発熱などの症状が起こるものですが、そのような場合、まず使われるのが葛根湯です。
  歯痛に伴う諸症状のうち、特に熱っぽくて炎症が強い場合、葛根湯に生薬(漢方薬の材料)の川きゅう辛夷を加た葛根湯加辛夷川きゅう(かっこんとうかしんいせんきゅう)を用いると、炎症と熱をおさえる作用がより強くなります。
  この人の体格から、頑健な実証タイプと考えましたが、見かけほど実証ではなく、体力中等度の可能性もあります。その場合は桂枝五物湯(けいしごもつとう)がよく効きます。これは健康保険が適用されていない処方なのでエキス剤はなく、煎じ薬を飲む必要があります。桂枝黄ごん地黄茯苓桔梗の五種類の生薬から構成され、歯肉の腫れ、発赤、潰瘍、口臭、痛みなどの改善に昔から多様されてきました。
  相談した時点では、歯茎は深紅色ですが、その後、炎症と化膿が進んで、歯茎が黄色に変化しているかもしれません。その場合は、排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)という薬がよく効きます。歯茎の腫れた部分に手の指先を当てて押してみてください。やわらかくフニャフニャしているようなとき、排膿散及湯はウミを出して炎症を改善します。
  さらに症状が進行して、ウミも出て、熱もなくなった場合、千金内托散(せんきんないたくさん)という処方が奏功します。これも健康保険の適用がないので、煎じ薬になります。
  これらのいずれの処方の場合でも共通する事項ですが、体格ががっちりして体力のある人が歯茎の炎症などで悩まされている状態のとき、同時にお血症状が現れているものです。お血とは、血液が滞りを起こしていることです。お血を取り除く、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの駆お血剤を併用すると、いっそう効果的なことがあります。
  歯茎や歯のひどい痛みに悩まされるときは、立効散(りっこうさん)がよく効きます。紹介した処方だけでは痛みの改善がいま一つという場合、立効散の併用を勧めます。
  これらの漢方薬が効果を発揮するまでの時間は、早ければ数日、時間がかかっても1、2週間です。また、ずっと飲み続ける必要はなく、症状が改善したら中止してかまいません。


漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
このページのトップへ
Copyright(C) 昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます