鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年2月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

手足のひどい冷えと顔ののぼせを漢方薬で治したい
  43歳になる主婦です。もともと冷え症でしたが、40歳になったころから、氷を足先につけられているような激しい冷えに悩まされ始めました。夜もほとんど眠れません。カイロで温めてもあまり効果がなく、冷えは治まりません。手先や背中も冷え冷えとしています。一方、顔は
ほてって、のぼせぎみです。
  冬場は、暖房のきいた部屋にいたり、暖かい食べ物を取ったりすると、顔ののぼせが激しくなり、ひどいときには頭痛や肩こり、目の疲れが起こります。
  夏場でも、厚手の下着を着て、靴下を2枚はかないと、足が冷えて気分が悪くなることがあります。それでも、真夏の日中などは、暑く感じることがあるので、厚手のシャツを脱いだり、靴下を1枚にしたりすることもあるのですが、そうすると今度は、背中、手、足が冷え始め、足先などは、痛みを感じることもあるほどです。そこで再び厚着をすると、今度は足先だけは冷えているのに、顔がポッポッとほてってくるのです。
  薄着でいると手足が冷え、厚着をすると今度は顔がほてるということのくり返しなのです。
  医師にも診てもらいましたが、よくなりません。血液検査には特に異常ありません。身長は154センチ、体重50キロです。血圧はやや高めですが、降圧剤(血圧を下げる薬)に頼るほどではありません。生理の周期は短く、量は少なめです。どうかよい漢方薬を教えてください。        (43歳/女性/匿名希望)


加味逍遥散と女神散を勧める
  冷え症そのものが問題にされることは、西洋医学ではあまりありません。冷えに近い考え方として末しょう循環不全がありますが、冷えを自覚するだけの段階での効果的な治療法は準備されていません。ただし、動脈や静脈がふさがるような血管炎などになると治療
が行われます。
  それに対して漢方では、冷え症そのものが治療の対象となり、さまざまな処方がそろえられています。冷え症にもいくつかタイプがあるので、そのタイプを見極める必要があります。
 
第1は血が足りない貧血のために冷えるタイプです。第2は末しょう循環不全に近い状態で、体の中の血液が順調に流れておらず、うっ血を起こしているために冷えるお血(おけつ)タイプです。第3に、血液というより水分が順調に流れない水滞(水毒)によって冷えるタイプです。第4は非常に胃腸が弱く、あまり食べ物を取ることができず、エネルギーも出てこなくて冷えるタイプです。第5は自律神経(意志とは無関係に内臓や血管を支配する神経)のバランスが乱れて体が冷えるタイプです。
  冷え症にはこのようにいくつかのタイプがありますが、このうちのどれか1つだけが原因というケースはまず考えられません。ほとんどの場合、このうちのいくつかの原因が重なって冷えが起こっています。したがって、患者さんに現れている症状や体質に応じて、どのタイプが重なっているかを診断し、処方を選んでいくことになります。
  さて、この人は、手足が非常に冷たく、背中も少し冷えています。しかし、なんといっても特徴的なのは、顔だけはいつもほてってのぼせていることです。全身が冷えているのではなく、手足は冷えて、頭はのぼせている「冷えのぼせ」です。
  冷え症と生理は、密接な関係があり、生理が順調な人は一般的に冷えが少なく、反対に生理の出血量が少ないとか生理不順の人には冷えが多いものです。この人は生理の周期が短く、出血量も少ないといっています。
  血液検査にも異常がなく(つまり貧血ではない)、体重は50キロですから、やせすぎのわけでもありません。むしろ少し太りぎみです。血圧はやや高めですが、血圧を下げる薬を使うほどでもありません。いい体格をしているので、生理の出血量はもっと多いのが自然ではないかと考えられます。
  これから考えると、血の巡りが悪く、漢方でいうお血のために冷えが起こっているのではないかと推測されます。しかも、末しょうのほうまでうまく血液が循環しないので、手足が冷えているようです。
  そこで、この人には加味逍遥散(かみしょうようさん)という処方が適しているようだと考えられます。この処方は、虚弱で疲れやすく、イライラや肩こりがある女性の冷え症、生理不順、更年期障害、胃腸障害、便秘、神経症などに用いてしばしば卓効を現します。
  次に考えられるのは、女神散(にょしんさん)です。これは加味逍遥散に近い薬ですが、不眠、精神不安、頭痛などの精神不安症状が強い場合の冷え症や生理不順、更年期障害のときに選択されます。
  手足の冷えが極度に強く、のぼせはそれほどでもないときは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきぎゃくしかごしゅゆしょうきょうとう)が効果を発揮することもあります。しもやけができやすいくらいの冷え症で、そのための下腹部痛、頭痛などにも悩まされている場合に奏効します。
 
加味逍遥散女神散当帰四逆加呉茱萸生姜湯をそれぞれ4週間ずつ試してみてください。これらはいずれもエキス剤が作られています。エキス剤は、普通の粉薬のように微温湯で飲む方法と、いったんお湯に溶かしてから飲む方法とがあります。本来の煎じた漢方薬は温服するのが原則ですから、お湯に溶かして飲むほうが効果が大きいといわれています。お湯で溶かすと苦味とにおいが強くなるものもありますが、そのときは普通の粉薬のように飲んでください。


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