鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年4月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

薬に頼るほどの不眠症とひどい頻尿を治したい
  私は、つらい不眠症とひどい頻尿に悩まされています。生まれつきあまり丈夫ではなく、虚弱体質でした。子供のころから、神経質だと人からよくいわれます。下痢をしやすく、手先や足先は、いつも冷たく感じます。
  身長は148センチ、体重は38キロで、血圧は、最大血圧が120ミリ、最小血圧が70ミリほどです。日中は、1時間おきぐらいにトイレに立ちますが、尿の量は少ないほうです。
  不眠症のため、2年ほど前から病院に通い、現在も、病院で出される精神安定剤と抗うつ剤(うつ病の治療薬)を飲んでいます。薬を飲むと5、6時間は眠れますが、のどがカラカラに渇いてしまうのです。飲まないでいると、ほとんど眠れません。
  一生、薬を飲み続けるのかと思うと、ひどく不安です。まず、不眠症を治したいと思います。頻尿も、外出先でもトイレのことを考えると出かけることも控えがちになります。よい漢方薬をぜひ教えてください。 (64歳/女性/匿名希望)


温胆湯か帰脾湯を第一に勧める
  不眠症と頻尿で困っておられるということで、頻尿が不眠の原因になる場合もありますが、あなたの頻尿は主に日中だけのようなので、頻尿が不眠の直接の原因ではなさそうです。不眠と頻尿は分けて考えてみます。

  不眠の原因にはいろいろなことが考えられます。頻繁に下痢をする、頻尿がある、頭痛がする、セキが出る、かゆみがあるなど、体のどこかに不眠の原因になるような症状があるために眠れないものを身体因性不眠といいます。次に、うつ病や神経症、分裂症などの神経障害で起こるものを精神因性(心因性)不眠と呼びます。さらに、枕が変わって眠れない、騒音がうるさくて眠れないなど、環境が原因のものを環境因性(生理学的)不眠といいます。
  あなたの場合、病院で抗うつ剤を出されているので、うつ病があるようです。お便りの文面からも、神経質そうな性格がかいま見えます。神経質なため、このままずっと薬を飲み続けるのは大変なのではないかなどと取り越し苦労をして、心配すれば心配するほど眠れなくなっている可能性があります。体のほうの症状は、下痢もしやすいほうですが、眠れないほどではなさそうです。手足が冷たいことは不眠と関係があるでしょう。基本的には精神因性の冷えも少し関係していると考えられます。
  不眠には、いくつかタイプがあり、寝つくことができない入眠障害タイプ、寝ついても途中で目覚めて眠れなくなる熟眠障害タイプなどがあります。あなたは薬を飲むと5、6時間は眠れると書いており、入眠と熟眠の両方の障害を併せ持っていると考えられます。また、精神安定剤と抗うつ剤の副作用として口渇を訴えています。これらの薬や睡眠薬など、自律神経に作用する薬は、副作用として口渇と便秘をもたらすものです。
  以上のことから、不眠を改善する処方を検討します。あなたのように、非常に虚弱体質で、しかも神経質な人の第一選択薬としては温胆湯(うんたんとう)、あるいは帰脾湯(きひとう)を考えます。温胆湯は、胃弱、胃アトニー、寝汗をかくなどのいわゆる虚弱な人に使われる睡眠薬です。帰脾湯も、虚弱体質や、手術後などで体力が衰えていて眠れない人の睡眠薬として用いられます。
  温胆湯を用いるポイントは、胃内振水音です。胃内振水音とは、手のこぶしで軽くみずおちをたたいたり、走ったりしたとき、胃の中でポチャポチャと水の音がすることです。温胆湯のエキス剤は作られていないので、最も近い処方として竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)を代用するとよいでしょう。帰脾湯のポイントは、貧血ぎみで、みずおちに動悸を感じ、少し神経質なことです。帰脾湯に似ていますが、心身ともに疲労している不眠には、酸棗仁湯(さんそうにんとう)という処方も選択肢に入ります。
  次に、頻尿には神経性の頻尿、男性の前立腺肥大が原因の頻尿、膀胱や尿路などの腫瘍が原因の頻尿、慢性の膀胱炎が原因の頻尿などがあります。したがって、頻尿の場合は泌尿器科で腫瘍や膀胱炎などを否定する必要があります。あなたは病院の診察も受けているので、そうした器質的な病変はなく、神経性の頻尿と考えます。夜間ではなく、日中、約1時間おきに尿意を催し、尿量が少ないなどは神経性の頻尿の特徴です。
  体力が弱い人の神経性の頻尿には、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)、あるいは当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が第一選択されます。清心蓮子飲は胃腸虚弱、全身倦怠感、口渇、排尿困難などが目標になり、当帰芍薬散は冷え症、貧血傾向、疲れやすい、耳鳴り、動悸などが目標となります。
  症状や体質に応じて、不眠と頻尿に対する処方を1つずつ合わせて2つを飲むことが必要と考えられます。その場合、不眠の薬は昼と就寝前に飲み、頻尿の薬は朝と夕方に飲むというふうに、1日に4回、服用してください。薬が体に合っている場合、飲み始めて1、2週間で効果を実感できるはずです。先に効果が出るのは、頻尿で、次に不眠が改善されるでしょう。
  難しいのは、今使っている現代薬をどうするかです。これを使わないと不安かもしれませんが、漢方薬を飲むとき、思い切って現代薬をやめてみてください。漢方薬が奏功すれば、そのまま眠れることもあります。もしどうしても眠れそうもないときは、それから現代薬を追加して飲んでも遅くはありません。

line

● 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。
このページのトップへ
Copyright(C) 昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます