鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年6月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


胃腸病を漢方薬で治しておいしく食事を食べたい
  私は、85歳になる女性で、体重は40キロほどです。日中はベッドから離れて生活していますが、ほとんど外出はしません。
  若いころは健康でよく働きました。78歳ごろから血圧が高くなったので、食事療法などを行
ったところ、血圧が安定してきました。ところが、82歳ごろから再び血圧が上がったので、それ以来、血圧を下げる降圧剤を服用しています。
  血圧は、日によって不安定になることもあり、最大血圧140〜150ミリ、最小血圧80〜90ミリほどです。心臓肥大(心臓壁が厚くなり心臓が大きくなること)と診断されています。
  排便時に少しいきむと、心臓の動悸が高まって血圧も上昇するので、便秘薬を2種類ほど毎食後に飲み、日によって浣腸をします。
  胃の検査では、成人としては少し小さいが異常はなし、とのことでした。ただ、たくさん食べられずに困っています。唾液が絶えず出たり、食後に胃が重苦しく感じられたりするときがあります。食事の分量は一食当たり、かために炊いたかゆを茶わんに軽く一杯、魚一切れ、野菜小皿一杯程度です。油料理はほとんど食べられません。
  食べると下痢をするときがあります。胃薬は、消化剤など3種類ほど飲んでいます。食事が進むようになり、胃腸によい漢方薬はないでしょうか。 (85歳/女性/匿名希望)


まずは六君子湯を勧める
  85歳で体重40キロとありますが、身長はわかりません。いちおう普通の体格で、身長は150〜155センチと考えることにします。肥満しておらず、やややせぎみというところです。あなたの症状を整理してみます。

  高齢ですが、若いころは健康でよく働いたそうですから、比較的元気な人なのでしょう。いくらか高血圧ぎみですが、血圧降下剤を飲み、最大140ミリ前後にコントロールしています。便秘の傾向もあり、いきむと動悸がして血圧が上昇するので、便秘薬を飲んでいます。胃が小さく、食後に胃が重苦しくなってたくさん食べられません。
  こうした症状に対して、西洋薬では多くの薬を処方せざるをえません。実際、この人は血圧降下剤、便秘薬、胃腸薬を処方され、合わせて少なくとも6種類以上の薬を飲んでいます。
  食が細くなっているということですが、年を取れば一般に誰でも胃が少し縮んであまり食べられなくなるものです。外出はほとんどしないそうなので、運動不足によって食欲が低下していることも考えられます。
  あなたは、食後に胃が重苦しく感じる、だ液が絶えず出ると訴えていますが、これは重要な情報です。だ液が絶えず出るのは、胃の内容物が逆流しているのかもしれません。食道は、胃の少し上の部分で、横隔膜(胸部と腹部の器官を隔てる膜)の裂孔部を縦に貫いていますが、年を取ると、横隔膜裂孔が緩むため、胃の内容物が逆流する逆流性食道炎を起こしやすくなります。胃の検査では、ひどいものではなさそうですが、胃の変化と症状は必ずしも一致せず、不快な症状が起こりやすいものです。食べるとすぐに下痢をすることがあるとも訴えていますが、これは消化力の低下、胃の神経症や過敏性腸症候群の傾向があることを示しています。また、これらの症状に精神的な原因も少し関係しているような印象を受けました。
  こうした特長をふまえたうえで、あなたの漢方治療を考えてみます。食を進めるための漢方薬は、実証(体力が充実していること)と虚証(体力が虚弱なこと)で選択が異なります。実証タイプには小柴胡湯(しょうさいことう)、実証と虚証の中間証タイプには柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などを用います。虚証タイプには柴胡剤の柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、あるいは疲れやすい人には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が用いられます。これらはいずれも生薬の柴胡(セリ科の草木ミシマサイコの根)を含んだ柴胡剤です。
  そのほかに虚証向けに六君子湯(りっくんしとう)を使うこともあります。みずおちを手のひらか手の指でたたくと、ポチャポチャと振水音(水が揺れる音)がする人にはよく効くのです。おなかが筋肉質で突っ張っていて、食後に重苦しいような痛いような感じがする人には、小建中湯(しょうけんちゅうとう) 、食後にみずおちが突っ張って吐きけがするような人には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)または人参湯(にんじんとう)、手足が冷たく高血圧があって食欲がない人には真武湯(しんぶとう)を使うこともあります。
  これらの中から、あなたへの第一選択薬は六君子湯です。食べたいと思っていても、食卓についていざ食べようとすると、食欲が出ない人によく効くといわれています。胃の振水音がある人にはとりわけ効果的です。もし六君子湯がそれほど思わしくないときは、第二選択として補中益気湯です。体がだるい、食欲がないなど、全身が衰えた人に使われる薬です。胃腸を丈夫にして、元気をつけてくれます。もっと体力が衰えている人には第三の選択として真武湯も考えられますが、あなたの場合、六君子湯補中益気湯で効果が得られると考えます。
  1ヵ月ほど服用して、効果を確認してみてください。これまで飲んできた西洋薬も、初めのうちは併用してもかまいません。服用期間は、漢方が食前または食間、西洋薬が食後です。同時に飲むことは勧められません。これらの漢方薬は、いずれも胃腸の機能を調節する作用がありますので、効果が出てきたら、便秘薬や胃腸薬はへらすこともできるようになります。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

このページのトップへ
Copyright(C) 昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます