鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

座骨神経痛の激しい痛みを消す漢方薬を教えて
  80歳になる女性です。身長は154センチ、体重52キロです。昨年3月ごろから腰が痛くなり、病院で、脊柱管狭窄症のため、神経が圧迫されて座骨神経痛になっているといわれました。腰からおしり、太ももの裏側から足首にかけて、痛くて歩けないほどです。両足ともしび
れています。夜中にトイレに立つときにも、痛いのを我慢して、なんとか一歩ずつ歩いて行きます。
病院では注射をしてもらいましたが、あまり効きませんでした。手術を勧められましたが、検査の結果、狭心症(心臓の血管が狭くなる病気)の症状が見られるので、手術は難しいといわれ、今は、痛み止めの薬と貼り薬をもらっているだけです。
便秘薬に頼らなければ排便できないほどの便秘で、イボ痔もありますが、痛くありません。10年ほど前から降圧剤を服用していて、現在の血圧は、最大血圧120〜140ミリ、最小血圧70〜75ミリほどです。
痛みだけでも軽くなったらと願っています。どんな漢方薬を飲んだらよいのでしょうか。  (80歳/女性/匿名希望)


まずは当帰四逆加呉茱萸生姜湯を
  座骨神経痛には、原因不明の突発性座骨神経痛と、原因が特定できる症候性座骨神経痛があります。症候性の場合、最も多い原因は、腰椎間板ヘルニア、次に多いのが、あなたと同様の腰部脊柱管狭窄症です。腰部脊柱管とは、腰部の脊柱神経を入れている脊

柱の中の管ですが、加齢などが原因で腰部脊柱管が退行変性を起こし、その管の内部が狭くなり、神経を圧迫して痛みが起こるのが、腰部脊柱管狭窄症による座骨神経痛です。
腰部脊柱管狭窄症の原因治療としては、手術によって狭くなった脊柱管を広げる方法があります。しかし、手術の結果がすべて順調にいくとは限らず、手術をしても症状があまり改善しない場合もあります。そこで、まず痛みを改善する対症療法を行い、しばらく様子を見て、効果が思わしくない場合に、手術を行うという順序で治療を進める医師が少なくありません。
対症療法としては、第1に、注射による神経ブロック(神経伝達を遮断し止痛を行う方法)、第2に鎮痛薬やシップなどの薬物治療、第3に患部を温める超音波などの温熱療法などが行われます。漢方療法は、2番目の薬物療法に用いられ、卓効を現すことがしばしばあります。座骨神経痛は漢方治療が得意とする分野の1つなのです。
それではあなたに適した漢方薬を考えていきましょう。あなたは80歳ですから、年齢に応じた老化もあると思われます。そのくらいの年齢になると冷え症で手足が冷たくなることが多いはずです。血流も悪くなっているでしょう。なぜかというと、イボ痔があるからです。イボ痔は、漢方でいうお血(おけつ)を示す症状です。お血とは、血液の流れが滞っていることを示す漢方的な考え方です。
そこで、第1選択は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。これは、当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)という冷えを取る薬に、さらに冷えを取る作用の強い呉茱萸生姜を加えた処方で、冷えを取るときには、いちばんよく使われる虚証(体力が弱いタイプ)向けの薬です。冷え症にも、体全体が寒い、手足が冷えるなどいくつかのタイプがありますが、特に、下半身の血流が悪く、足が冷えるタイプに向いた処方です。
実際に足にふれてみて、足が冷たくなって、冷えのためにしびれているような場合は、この処方にさらに附子を加えると冷えを取る作用が増強されます。
第2選択は芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)です。この薬は痛みが強くて歩きにくいという人によく効きます。芍薬甘草湯附子を加えた芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)は、別名「去杖湯(きょじょうとう)」と呼ばれ、今まで杖がないと歩けなかった人が、杖がなくても歩けるようになる薬とされています。実際に杖が不要になるかどうかはともかく、この処方で足の痛みが非常によくなる例は、たびたび体験しています。夜間に頻繁にこむら返りが起こって悩んでいる人もこの薬を飲むとよくなることがあります。
 芍薬甘草湯あるいは芍薬甘草附子湯が適する人を診察するとおなかの腹直筋が突っ張っています。芍薬甘草も、けいれんや腹直筋の緊張による攣急症状(例えば冷えによる痛みやこむら返りなど)を和らげる作用があります。
ただし、第1の場合も第2の場合も、附子は医師の処方せんがないと入手できません。当帰四逆加呉茱萸生姜湯、あるいは、芍薬甘草湯でもじゅうぶんな効果が期待できます。
  第3に八味丸(はちみがん)です。八味丸が水(水分)と血(血液)の循環をよくし、座骨神経痛を改善するケースもしばしば見られます。八味丸は、単独よりも、前述の2つの処方とそれぞれ組み合わせて服用するのが効果的です。
もう1つ考えられるのは、あなたが虚弱なタイプではなく、どちらかといえば、頑強なタイプの場合です。そのときは、疎経活血湯(そけいかつけつとう)が奏効するでしょう。
そこで、初めに当帰四逆加呉茱萸生姜湯を、次に芍薬甘草湯を1ヵ月ずつ服用してみてください。そのどちらかがよく効くならそれを続け、どちらも思わしくなければ、それぞれに八味丸を組み合わせます。朝夕、当帰四逆加呉茱萸生姜湯あるいは芍薬甘草湯を飲み、昼に八味丸を飲んでみます。
この4つの飲み方のいずれかで、座骨神経痛はやわらげられ、それに伴って歩くこともできるようになると思います。

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