鍋谷院長の漢方なんでも相談室

以下は健康雑誌「壮快」1999年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


便秘薬の副作用のひどい腹痛から逃れたい
  私は69歳になる主婦です。もともと冷え症で、便秘ぎみでしたので、カイロで体を温めたりして過ごしてきました。
  3年ほど前から、便秘がひどくなりました。冷え症は、以前ほどではありませんが、便秘
は、便秘薬に頼るようになったのです。薬を飲んで便が出ると腹痛で苦しむのですが、飲まずにいると、おなかがパンパンになって実に苦しくなるのです。
  腹痛が1日くらい続くこともあり、食欲がなくなってしまいます。便秘に効くと聞いたものは、、便秘薬や健康食品など、いろいろ試してみたのですが、私には効かず困っています。
  私は身長163センチで、体重60キロです。心療内科にかかっていて、精神安定剤と抗うつ剤を飲んでいます。私は血圧は少し高めですが、降圧剤(血圧を下げる薬)は飲まない方がよいと医師にいわれていて、飲んでいません。医師に便秘のことを相談しても、便秘では死なないよと相手にされないのです。よい漢方薬はないでしょうか。(69歳/女性/匿名希望)


第一選択薬には大黄甘草湯を
  現代医学では、便秘を次のように定義しています。第一に、排便の回数が著しく減少します。第二に、1回の排便量も非常に少なくなります。平均的な排便量は150グラムですが、便秘の人は35グラム以下程度しか出なくなるといわれています。第三に、かたい便が出

て、第四に、排便困難が伴い、第五に、自力で排便できないので、下剤を必要とします。これらの症状に悩まされている人は、便秘と考えて間違いないでしょう。
  便秘は器質的な便秘と、機能的な便秘に大別されます。器質的な便秘とは、体の臓器に形の上での変化や異常があるために起こる便秘です。極端な例をいえば、腸にガンができて起こる便秘は、器質的な便秘といえます。機能的な便秘とは、器質的な異常がないのに、主に腸の働きの異常が原因で起こる便秘です。
  機能的な便秘は、さらに弛緩性の便秘とけいれん性の便秘に分けることができます。弛緩性の便秘とは、腸の緊張や運動が低下して、腸がたるみきったような状態になるために起こる便秘です。けいれん性の便秘とは、腸が異常に緊張して運動が亢進し、けいれんして内容物を下に送らなくなる便秘で、過敏性腸症候群の症状の一つです。
  便秘は、急性の便秘か慢性の便秘かに分けることもできます。便秘に悩まされている人の多くが、慢性の機能的な便秘で、かつ、弛緩性の便秘です。このような便秘を常習性便秘と呼んでいます。しかし、慢性のけいれん性の便秘は区別しにくく、常習性便秘に含まれることもあります。
  あなたもこうした常習性便秘であるとしたうえで検討を進めましょう。この人の163センチで60キロという体格からすれば、やや太りぎみで大柄ですが、昔から冷え症で、カイロを使ったということなので、69歳の年齢からしてもやや虚証(体力が弱いこと)と考えられます。
  便秘薬で腹痛が起こったということですから、その薬はおそらく腸を刺激したり運動を亢進させたりする薬ではないか、その薬は弛緩性便秘に対して処方されたのではないかと考えられます。また、あなたは抗うつ剤を飲んでいますが、この種の薬剤は腸管の運動を低下させるので、当然、便秘傾向が強まると思われます。
  こうした常習性の便秘に対して、漢方薬は卓効を現すケースが少なくありません。一般に、体力が充実した実証タイプには大黄芒硝などの生薬(漢方薬の材料)が入った処方が用いられ、虚証タイプには地黄人参などの生薬が入った処方が用いられるものです。
  あなたへの第一選択薬としては、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)を勧めます。これは大黄が入っていますが、実証にも虚証にも幅広く用いることのできる薬です。粉のエキス剤は7.5グラムを1日3回に分けて服用するのが一般的ですが、大黄甘草丸(だいおうかんぞうがん)、略して大甘丸(だいかんがん)という丸薬も作られています。
  大甘丸は1日に3〜6グラム(30〜60粒)を服用しますが、効き具合に応じて容易に量を加減できるのが便利です。30粒を服用して効き目が弱かったら、少しずつ増量できるし、効き目が強すぎたら減量できます。
  第二選択薬は、麻子仁丸(ましにんがん) です。これも大黄が入っているので大甘丸とやや似ていますが、体の水分が乾燥して便秘になった高齢者などに、麻子仁で腸の乾燥を潤し、穏やかに効きます。エキス剤と丸薬とがあり、丸薬なら効き目に応じた加減が容易にできます。大甘丸麻子仁丸も、エキス剤は保険が使えますが、丸薬は使えません。
  第三選択薬は、潤腸湯(じゅんちょうとう)です。これは麻子仁地黄が入っていて、虚証タイプ向けで、皮膚がカサカサしているような人に適しています。さらに虚証タイプの人には、加味逍遥散(かみしょうようさん)八味丸(はちみがん)が効く場合もあります。
  お便りで判断できるのはこの辺りまでですが、これらの薬で効果がない場合、服診(腹部を手で押してやわらかさや緊張を診る診察法)をしたうえで、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)腸胃承気湯(ちょういじょうきとう)大柴胡湯(だいさいことう)などを用いることもあります。
  最初に挙げた3つの処方を試してください。体に合った処方なら、1週間以内になんらかの変化が実感できるはずです。2週間も続ければ効果が確信できるでしょうが、量を加減して自分に合った飲み方がわかるまでは1ヵ月ほどかかります。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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