対談
 
この記事は「安心」2001年6月号の「生島ヒロシの健康一番」(連載21)より引用させていただきました

下痢腹痛が続く潰瘍性大腸炎にみごとに効く漢方療法
 潰瘍性大腸炎という病気をみなさんはご存知でしょうか。 血便が出て下痢が続く病気ですが、特効薬はなく、難病といわれています。しかし、その治りにくいといわれる潰瘍性大腸炎に漢方薬で効果をあげている先生がいます。昌平クリニック院長の鍋谷欣市先生です。そこで今回は、鍋谷先生に潰瘍性大腸炎の漢方治療についてうかがいました。
生島ヒロシ(右)
キャスター。東北福祉大学客員教授。現在、『週間・経済王』(テレビ東京)、『生島ヒロシのおはよう一直線』(TBSラジオ)などの番組に出演のほか、講演活動でも精力的に活躍中。著書に、テレビドラマにもなった『おばあちゃま、壊れちゃったの?』(三笠書房刊)、『生島ヒロシのこれで元気に!「手間なし」健康法』(日本経済新聞社刊)など多数。

鍋谷欣市(左)
1927年青森県生まれ。52年千葉医科大学卒業。千葉大学医学部第二外科助教授をへて、73年杏林大学第二外科教授。93年から同大名誉教授、昌平クリニック院長を務める。95年から日米医学医療交流財団理事長、99年から会長も兼務。消化器がんの権威。外科領域に漢方を応用した第一人者。現在難病の漢方治療に取り組んでいる。

粘血便を伴う下痢が続く
生島 潰瘍性大腸炎に悩む患者さんがふえているそうですね。
鍋谷 最近の数字でも、
潰瘍性大腸炎の患者数は年間6万人近くにのぼっています。これは申請された数字なので、実際にはもっと多いのではないでしょうか。過去にはまれな病気でしたが、環境や食生活の変化で確実にふえていますね。
生島 どういう症状が特徴なのでしょうか。
鍋谷 血便や粘血便(粘液や血液のまざった便)を伴う下痢が続き、腹痛に悩まされるようになります。
生島 ただの下痢ではなく、血がまじってくるのですね。
鍋谷 血便がひどくなると貧血になり、体力も落ちていきます。排便の回数も1日5〜10回にもなり、社会生活を送るのも困難になっていくのです。
生島 僕は以前、胃潰瘍に悩まされていたのですが、この潰瘍性大腸炎というのは、同じ潰瘍でも腸にできるということですか。
鍋谷 そうです。潰瘍は、肛門に近い直腸からS状結腸の上方にまでできるケースが多いようですね。内視鏡で腸の粘膜を見ると、健康な腸の粘膜が透明なのに対し、びらん(ただれ)や潰瘍ができているため、粘膜が真っ赤に炎症している
ことがよくわかります。進行すると大腸全体に及ぶこともあるんですよ。
生島 どんな人がなりやすいのですか。
鍋谷 比較的、虚弱体質や皮膚の弱い人がなりやすいようです。しかし男女差はなく、年齢的にも10代から80代まで幅広いですね。症状の経過も一定ではなく、症状が悪化したりおさまったりをくり返す人、なかなか治らず長く下痢や腹痛に悩まされる人などさまざまです。
生島 原因はなんですか。
鍋谷 実は原因がわからないため、厚生労働省の難病に指定されています。ストレス過多や免疫力の低下が関係しているのではないか、もしくは遺伝など、いろいろ考えられているのですが、現在もくわしくはわかっていません。

生島 ということは、根本的な治療もないということですね。
鍋谷 残念ながら、そうなのです。
潰瘍性大腸炎に使われるステロイド(副腎皮質ホルモン)系の薬や抗生物質も、腸の炎症を抑えることしかできません。慢性の治りにくい病気なので、難病に指定されているのです。

慢性病には漢方治療が効果的
生島 根本的治療法がなく、どこで治療しても治らなかった人たちが先生のもとにやってくるそうですね。
鍋谷 原因がハッキリせず、西洋医学の治療で治りにくい病気にも漢方薬が効果を発揮することがよくあります。
生島 潰瘍性大腸炎もその一つなんですね。
鍋谷 病気のとらえ方が、東洋医学は西洋医学と違うので、難病といわれているものでも有効な場合があるのです。
 たとえば、東洋医学では病気はすべて、気(一種の生命エネルギー)・血(血液)・水(リンパ液などの体液)のバランスがくずれたために起こる、と考えます。そして体力が落ちているときに作用の強い薬を使うのは望ましくないので、作用のおだやかな薬を用いて、少しずつ気・血・水のバランスのくずれを元に戻していくのです。
生島 潰瘍性大腸炎には、具体的にどのような漢方薬を用いているのですか。
鍋谷 血便のでている急性期には、桃花湯(とうかとう)
大桃花湯(だいとうかとう)を使用しています。桃花湯は中国で2000年前から使われていた歴史のある漢方薬で、収れん作用(患部の血液を収縮させて組織の乾燥を促し、痛みや腐敗を防ぐ働き)や止血作用、体を温めて冷えを取る作用があります。大桃花湯桃花湯と同じく収れん・止血作用にすぐれ、体を温めることに加え、胃への刺激が弱いことが特徴です。
生島 その桃花湯大桃花湯で、よくなった例を何例か教えてください。
鍋谷 まず一例は、46歳の男性Hさんです。Hさんは、
1日5〜8回も粘血便を伴う下痢と排便前の腹痛がありました。大腸内視鏡で潰瘍性大腸炎と診断され、処方されたサラゾピリンという西洋薬を飲み続けていましたが、いっこうに症状が改善しませんでした。Hさんは学校の先生だったので、授業中にトイレに行かなくてはならず、困り果てて当クリニックに来院したのです。
 そこで大桃花湯と胸脇苦満(肋骨の下あたりのツッパリ感。押すと苦しく感じる)もあったので、柴苓湯(さいれいとう)を服用してもらったところ、経過が非常によく、2ヶ月ほどで便に血液や粘液がまざらなくなりました。さらに1ヶ月後には、下痢便が軟便になり、排便回数も1日4回ほどにへり、腹痛もなくなっていきました。

生島 すごいですね。
鍋谷 もう一例は、63歳の男性Nさんです。Nさんは、
30歳のときに潰瘍性大腸炎と診断され、サラゾピリンで回復しました。ところが、その後に再発し、下痢や腹痛、血便に悩まされ、再びサラゾピリンを飲むことになりました。
 このときは約2ヶ月で血便がおさまりましたが、4年後にまた再発しました。そこで今度は、ステロイド剤もいっしょに飲んだのですが、症状がおさまりません。そこで当クリニックに来院しました。
 Nさんには、桃花湯に加えて、胸脇苦満があったので、柴苓湯と、お血(血液の滞り)もあったので桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)も処方しました。すると2週間で粘血便が固まってきました。1ヶ月で便に血がまざらなくなり、2ヶ月で正常便になりました。ずっと飲んでいたサラゾピリンなどの薬もやめています。
生島 その方たちは、ずっとその漢方薬を飲んだのですか。
鍋谷 HさんもNさんも、その後は別の漢方薬に変えました。漢方薬は、そのときどきの症状に合わせて服用していくのが基本です。
潰瘍性大腸炎の場合も、血便がおさまったら胃風湯(いふうとう)柴苓湯啓脾湯(けいひとう)に処方を変えます。そして症状が改善してきたら使用を減らしていくのです。
生島 飲み続けるのはよくないのですか。
鍋谷 病気になったときに飲む漢方薬は、一般的にはあまり飲み続けないほうがいいですね。
漢方には上薬(じょうやく)・中薬(ちゅうやく)・下薬(げやく)と三段階あります。上薬は不老不死の薬、中薬は強壮薬、そして下薬が病を治す薬です。上薬、中薬は長期的に服用していって問題ありませんが、われわれの体に実質的に効果が出る下薬は、多少の配慮が必要です。漢方にも副作用はありますし、バランスが大切なのです。
生島 西洋薬は急性の病気に、漢方薬は慢性の病気にと、それぞれの得手不得手を互いにカバーしながら使い分けて、上手に利用していきたいですね。

病気には休養が最高の治療薬
生島 現代の食生活も潰瘍性大腸炎の増加の一因ではないかといわれましたが、ではどのような食事がいいのでしょうか。
鍋谷 刺激物や脂肪過多の食事はよくありません。いろいろな食べものをバランスよくとることですね。そして体力をつけることです。潰瘍性大腸炎のような原因不明の病気は、体力をつけて抵抗力を養うことがとくに大切なのです。食生活やストレスには気をつけてください。
生島 ところで、漢方では診察のしかたも西洋医学と違って、四診(顔色、皮膚、爪、舌などを診る
望診、苦痛を詳しく問う問診、聴診や、血圧も測定する聞診、脈診などの触診である切診)というのをするんですよね。ふれただけで病状を察することができるなんて、本当の名医のように思います。先生、僕をぜひ診断してください!
鍋谷 はい。(生島さんの舌を診ながら)色はいいピンク色をしています。けれど、舌の端がボコボコしていますから、水の流れが悪いようですね。多少のむくみがあると思います。ストレスも舌の色ですぐわかります。ちなみに潰瘍性大腸炎の患者さんは、舌のコケがなくなっているケースが多いですね。
生島 最後に病に悩む患者さんにひとことアドバイスをお願いします。

鍋谷 下痢が長く続いたり、血便が出たりしたときは、軽く考えないで医師の診断を受けてください。潰瘍性大腸炎のほか、O−157のような細菌性の食中毒やガンの可能性もありますから。くれぐれも、たかが下痢とあなどらないでください。
 また、病は日常生活に無理をして体がこわれた結果起こります。ですから中庸、つまり休養が最高の治療薬なのです。病気になったらゆくり療養してください。
生島 僕にも身にしみるお言葉です。
     今日はどうもありがとうございました。

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