漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「ゆほびか」2006年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


「うつ」によく効く漢方薬 -抗うつ剤・精神安定剤・睡眠薬がすべて不要に-

女性のほうが断然かかりやすい
  突然、精神的な痛手を負ったり、長期にわたって不安定な精神状態が続いたりすると、体内の「気」のバランスがくずれて、うつ病などの精神症状が現れます。
  病気、元気などの言葉に使われていることからもわかるように、漢方で気は、生命活動を維持するエネルギーと考えられています。
  気の変化は、心身の活動に影響を及ぼします。ですから、ストレスなどで気が停滞したり不足したりして、流れに異常が起こると、心と体の両面に病気が現れるのです。
  気の異常の初期の段階を、気うつ(気滞)といいます。気が停滞した様態で、気分が落ち込んだり、不安やイライラに襲われたりします。
  この状態が悪化して、気が不足した気虚になると、無表情になり、なにもやる気が起こらなくなります。
  漢方の治療では、「証」を考慮します。証とは、自覚症状と他覚症状、体質による総合判断です。体力が充実している状態を実証、体力が弱っている状態を虚証、そして両者の中間の状態を中間証といいます。
  漢方薬は、うつ病の進行度(重症度)と証に応じて選びます。

■初期の軽いうつ病
【中間証】
  香蘇散(こうそさん)は、なんとなく不安で眠れず、意欲がわかないし、食も細いという場合、気剤(気の不足を補う薬)として用います。ふだんから胃腸が弱い場合や、カゼにもよく効きます。
【虚証】
  酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、本来は睡眠薬です。眠りが浅く、そのため疲れを感じる場合に処方します。

■進行度が中等度のうつ病
【実証】
  柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、主に不安、不眠、便秘などを訴え、みずおちに動悸がある場合に処方します。竜骨牡蠣柴胡大黄などの生薬を配合しており、竜骨牡蠣には精神を安定させる作用があります。
  柴胡は、胸脇苦満(みずおちから肋骨の下にかけて、ものが詰まったような膨満感があり、胸やわき腹が苦しい状態)が強い場合に用いますが、強壮・解熱の薬効もあります。
【中間証】
  半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) は、うつやヒステリーなどの精神症状に加え、のどの通りが悪く、胸のつかえ感や吐き気などの身体症状がある場合に処方します。
【虚証】
  加味帰脾湯(かみきひとう)は、動悸、貧血があり、体が疲れ、イライラして不安感がある場合に適用です。精神症状の強い人に用いて、体力をつけながら精神を安定させるのに役立ちます。
  柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)は、のどが渇いて、汗をかき、口が苦く、みずおちに動悸があって、疲労感を訴える場合に使います。
  桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)は、実証の柴胡加竜骨牡蠣湯柴胡の代わりに桂枝を配合した漢方薬です。柴胡加竜骨牡蠣湯を使う場合と同様の症状があり、汗かき(虚証)の人にこの漢方薬が適用です。

■重症のうつ病
【中間証】
  甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)は、疲れがひどく、精神的にも不安定な場合に用いる漢方薬です。悲しみが強く、あくびがよく出る人に処方します。
  分心気飲(ぶんしんきいん)は煎じ薬で、根気がなく、ゲップ、吐き気、むくみ、食欲不振などの症状が特徴的に見られる場合に用います。
  以上に挙げた薬と合わせて、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を、気力・体力とも激しく低下している場合に処方することがあります。
  うつ病は、進行度を見分けるのが非常に難しく、問診がとても大事です。
  また、女性のほうが断然多く、肩こりや不眠などを訴えて来院しているが、うつ病を伴っている場合もよくあります。  

3ヵ月で抗うつ剤が不要に
  西洋医学では、うつ症状には抗うつ剤、不安感には抗不安剤、睡眠障害には睡眠薬という具合に、症状に応じて薬を処方します。その結果、症状を併発しているときは多種類の薬を服用することになります。しかも、長期間服用すると、薬の効きが悪くなる人も少なくありません。
  当院を訪れた66歳の女性は、更年期はすでに終わっていましたが、長い間、うつ傾向がありました。以前から心療内科にかかっていて、抗うつ剤と精神安定剤、睡眠薬を服用していました。不眠、冷えなどがあり、突然悲しみに襲われると言います。夫が重い病気で、それによるストレスが原因だったようです。睡眠薬を飲んでも眠れないと訴え、漢方治療を望んで来院しました。平成16年2月のことです。
  身長153cm、体重48kgで、血圧や血液検査で異常がなく、貧血もありません。私はこの女性を中間証と診断し、香蘇散を処方しました。
  2ヵ月間香蘇散を服用して、症状はだいぶ軽快しましたが、不眠が完全には解消しないし、気分がスッキリしないと言います。
  そこで、香蘇散に代えて、甘麦大棗湯加味帰脾湯を処方しました。この2つを飲み続けたところ、6月には不眠もうつ気分もかなり軽くなりました。
  本人の希望で漢方薬を続けたところ、初診から1年後に、うつ傾向などの精神症状が、ほぼすべて治りました。
  ちなみに、漢方治療を始めて3ヵ月で抗うつ剤、精神安定剤をやめ、約1年で睡眠薬がなくても眠れるようになっています。
  漢方薬を服用するに当たって注意が必要なのは、精神科でうつ病の治療スケジュールを組まれている患者さんの場合、投薬中に漢方薬を併用しないことです。前もって、医師とよく相談しましょう。
  そして、睡眠薬は依存性があるため、徐々に服用量をへらしていく必要があります。
  また、軽いうつ病は、気持ちの持ち方を変えれば、改善しやすいものです。例えば、なにかに夢中になって気分のスイッチが変わると、うつ状態から抜け出してしまうこともあるのです。ですから、うつ病を治療する医師は、薬ばかりに頼らず、患者の気持ちをいい方向へ導くことも非常に重要です。

line

● 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

このページのトップへ
Copyright(C)昌平クリニック. 記事の無断転載を禁じます